古代ギリシャ人もお取り寄せ⁉ いまが旬!日本人が大好きな味覚、「カキ(牡蠣)」の歴史を紐解く
濃厚なうまみと豊富な栄養を含み、「海のミルク」とも呼ばれるカキ
鉄分やカリウム、亜鉛などが豊富な、栄養豊かな食材です。
「海のミルク」という別名もあり、肝臓の働きを助け、疲労回復に効く食材としても知られます。
昔はすべてオスだと思われていたため「牡蠣」という字が当てられますが、実はカキは雌雄同体。
生殖期になると、交代で雌雄の役割を果たすのだそうです。
2回シリーズでお届けするカキのお話、まず前編では「人間とカキの歴史」を紐解きます!
おいしい身も、殻も、無駄なく利用……人間とカキの、深~い関わり
海に漁に出なくても、岸辺を歩き回るだけで獲ることができる貝類は、古くから人類にとって大切な食料でした。
たとえば、デンマークには世界最大級の貝塚遺跡がありますが、その大部分がカキの殻なのだそうです。
古代ギリシャでは、ヘレスポント海峡(ダーダネルス海峡)からカキを取り寄せていました。また、平らな殻を投票用紙として使うことも行われていました(のちに陶器のかけらが用いられるように)。
古代ローマでは、早くもカキの養殖が始まっており、マルマラ海やブルターニュ、アドリア海など、さまざまな産地から運ばれたカキが市場に並んでいたといわれます。
「唯一の運動は眠ることであり、唯一の楽しみは食べることである」……フランスの小説家で、美食家としても知られたアレクサンドル・デュマは、その著書「料理大事典」の中で、岩にへばりついて生きるカキをこんなふうに描写しています。
また、固い殻に覆われた様子から、カキは寡黙さのシンボルともされました。英語には「カキのように無口」「カキのように口が固い」といった表現が残っています。
日本でカキの養殖がはじまったのは16世紀!
加熱用と生食用があります
また、平安時代に編纂された「延喜式」には、干したカキを交易品として取り扱った記録が残っています。
身を食べるだけでなく、殻をすり潰して「胡粉(白色の絵の具)にしたり、肥料としても使われてきました。
日本でカキの養殖がはじまったのは16世紀ごろ、広島が発祥の地といわれます。
「賀喜」「嘉喜」などと表記されることもあるカキ。「福を『かき』込む」おめでたい食べ物として、お正月料理に取り入れる地方も多い食材です。
ちなみに、一般的に食用とされるカキは「マガキ」という種類。病害に強く、かつてヨーロッパのカキが病気で壊滅状態になった時、日本から種カキを移植したことでも有名ですね。
「Rがつかない月にはカキを食べるな」ということわざがありますが、これはマガキが産卵期を迎える夏には身がやせるためとも、生殖巣が発達して中毒を起こしやすくなるからとも言われます。
よく似たことわざとして、日本では「花見を過ぎたらカキ食うな」などと言うようですよ。
このマガキと入れ替わるように、旬を迎えるのが「イワガキ」。
別名「夏ガキ」ともいわれ、春から秋口にかけて出荷されます。
カキに「あたる」とは? 「生食用」と「加熱用」の違いとは?
カキフライには、ぜひ「加熱用」のカキを
水質管理などの側面から、養殖ものに利点があるともいわれるカキ。
よく「カキはあたりやすい」と言われますが、それは水質に左右されやすいカキの生態が影響しています。
カキは、殻を開閉しながら大量の水を体内に取り入れ、水中にいる生き物をえさとして摂取しています。
その過程で、有害な物質を取り込んでしまうことがあるのです。もちろん、一定以上の有害物質が含まれたカキは検査ではじかれ、出荷されないのでご安心を。
それでもリスクを完全にゼロにはできないため、「運悪く」あたってしまうことがある、というわけです。
スーパーマーケットの店頭などでよく見かける、殻を取り除いた「むきガキ」。以前はもっぱら加熱用だったむきガキですが、流通や加工技術の進歩で、生食用のむきガキも出まわるようになりました。
この「加熱用」と「生食用」のむきガキ、使い分けたほうがいい理由があります。なぜなら、「生食用」は殺菌のため、滅菌した海水の中で一定の時間活かしておいたものだからです。「あたる」心配は減らせますが、そのぶんうまみは少なくなっているのだとか。
加熱用のむきガキは、そうした工程を経ていないため、カキならではの濃厚なうまみが残っています。
加熱する料理には、「加熱用」と明記されたむきガキを使ったほうが、美味しく仕上がるというわけですね!
話が進むにつれ、カキの歴史から「食べること」に近づいてきました。
続く後編では、カキの美味しい食べ方についてご紹介します!
野本寛一編「食の民俗事典」
マグロンヌ・トゥーサン=サマ(玉村豊男監訳)「世界食物百科」(原書房)
アレクサンドル・デュマ(辻静雄・林田遼右・坂東三郎編訳)「デュマの大料理事典」(岩波書店)