母親が食べると目と肌のきれいな子が生まれる…?アワビ伝説の真相とは
お皿のような形をしているのに実は巻貝。アワビの不思議
実は巻貝の仲間なんです
アワビの仲間のミミガイ科の貝は世界に80~100種ほどいますが、このうち食用とされる大型の貝を「アワビ」と言い、クロアワビ、メカイ(メガイ)アワビ、マダカアワビ、エゾアワビの四種が知られています。同じく食用にされるアワビをこぶりにしたようなトコブシもアワビ属で、広義ではアワビの一種とされます。藻食性で、ワカメやアラメ、カジメ、マクサなどの海藻を、ヤスリのような歯舌でなめ取って食べます。このあたりも、カタツムリなどの巻貝とよく似ていますね。
産卵はどの種もおおむね海水温が20℃で始まる事が分かっており、このため房総半島以南の暖海に住むクロアワビ、メカイアワビ、マダカアワビは、水温が下がり20℃を下回った晩秋から冬にかけてが産卵期。茨城以北の寒冷帯に適応したクロアワビの亜種エゾアワビは、水温が上がって20℃を超える夏から秋が産卵期となります。これらの繁殖産卵期はほとんどの地域で禁漁となるため、クロアワビ、メカイアワビ、マダカアワビは冬が過ぎた4~5月ごろに漁が解禁となり、初秋の9月ごろまで漁期が続きます。エゾアワビはこれとはずれて、冬から春の初めが漁期。日本国内で流通するアワビは東北などで産するエゾアワビがもっとも多いのですが、最高級品はクロアワビとされ、英語でもJapanese Abaloneとも言われるほどのアワビの代表種。市場の値段もエゾアワビより高くなります。アワビの仲間でももっとも筋力が強く、速い速度で這い回ることが出来るため、その味も濃くなります。
クロアワビの主な産地は、紀伊半島、長崎県五島列島、伊豆半島、淡路島などの太平洋沿岸や暖流の影響を受ける外洋に面した磯場ですが、中でも千葉県外房~南房総のアワビは絶品の最高級品とされています。
この他、加工品としては山梨県の「アワビの煮貝」や伊勢の「参宮アワビ」、伊勢神宮に奉納する「熨斗鮑」などがあります。
そして、加工品の中でも知る人ぞしる珍味こそ、岩手県の名産「としる(としろ)」です。
「ネコの耳が落ちる」「肌や目がきれいな子が生まれる」アワビのキモにまつわる言い伝え
反面、アワビの貝殻は石決明(せっけつめい)という名の漢方としても用いられます。アワビ、トコブシなどの貝殻を洗浄・乾燥させたもので、肝機能の改善やかすみ目・疲れ目、視力回復や眼病などに薬効があるとされます。光を感受する感覚器官である目や、その目や皮膚の機能と関連の深い肝臓と、アワビに含まれる成分とは、古くから関係があることが経験的にわかっていたようで、妊婦がアワビを食べると目のきれいな(視力のよい)子が生まれる、肌の美しい子が生まれる、という言い伝えは日本各地に残り、それも特にキモを食べるとよい、とも言われていました。まさにこれは光過敏症を引き起こす成分が、逆に胎児の目や皮膚の形成発達に寄与する成分でもあるということを示唆しています。
伝説の大アワビ、その名は「器械根アワビ」
獲れたてのアワビ
いすみ市の沿岸、大原漁港から東へ十数キロ沖合には「器械根」と呼ばれる水深20~30mほどの岩礁群があります。房総半島や神奈川県の三浦半島沿岸の海底の各地には方言でネ=根と言われる岩礁地帯があり、「ネ」の付近の海面は良漁場として知られていました。この中でも器械根は広大な岩礁群で、北上する暖流の黒潮と南下する寒流の親潮がぶつかりあう箇所に当たり、世界的にも有数の好漁場となっています。器械根という呼び名は器械潜水が各地で行われるようになった明治後期ごろからで、かつては「大根(おおね)」「中根」などと呼ばれる東西、南北にそれぞれ8kmにも及ぶ範囲に広がる大岩礁群です。九十九里浜の南端の大東崎から東方の海中に延びた第三紀層の泥炭岩で、カジメが大森林のように生息し、イセエビ、ヒラメ、タコ、タイ、イワシ、イサキ、サザエなどが豊富な餌で大きく育ちます。そして「鮑礁」とも呼ばれていたほどのアワビの大繁殖地。ここで育つマダカアワビは特に巨大になることでも有名で、全国からこの漁場を目指して漁師が集結し、アワビをとりつくした明治期の乱獲がたたり、特産の器械根アワビ、つまり特大マダカアワビは、現状漁を解禁したり禁漁にしたりを繰り返しており、2017年より漁が中断されています。重量5kgにも迫ったといわれる幻の器械根アワビが復活してほしいものです。特大マダカはめったにお目にかかれなくなりましたが、今でも2kgに迫る大物が時折上がるようです。
目八譜 第十一巻(武蔵石寿 国立国会図書館デジタルコレクション)
アワビ類の漁獲動向
光酸化的溶血反応を用いた光過敏症防御物質の探索