二十四節気「立冬」。山茶花が咲き始め、冬の到来を告げるころ
初冠雪・初雪・木枯らし1号…「立冬」を迎え冬の気配がちらほらと
「暦便覧」によると立冬とは、“冬の気立ち初めていよいよ冷ゆればなり”。寒冷地では大地が次第に凍り、すでに雪のニュースも届き出し、山々の頂を雪や氷が白く染める初冠雪が、目前に迫った冬の訪れを示しています。
昼間の時間も日々短くなるこの時節。木の葉を散らす冷たい北寄りの季節風「木枯らし」も吹き出します。東京や大阪で最初に観測される木枯らしが「木枯らし1号」。冷たい風にはらはらと葉を落としてゆく樹木の姿に、すっと肺を満たす冷たい空気に、なんとはなしに「今年ももうすぐ終わり」といったもの寂しさと、慌ただしさを覚えます。
七十二候では、「山茶始開」。山茶花(さざんか)が咲き始めました
このように山茶花といえば、晩秋から冬の花と思われていますが、山茶花と薮椿(やぶつばき)が自然交雑した春山茶花(はるさざんか)は冬から春の花。また、真冬に花を咲かせる寒椿(かんつばき)も園芸上では、山茶花に含まれまれることも多いとのこと。
常緑の葉に鮮やかに咲き誇る紅やピンク、白の花を見て、あれは椿?それとも山茶花?と、よく疑問に思ったりするのも、厳密にはなかなか区別がつかないからなのでしょう。
さて、椿と山茶花を区別するためによく言われるのが、その散りざまです。花の形を留めたままコロンと落ちる椿と違って、山茶花の花びらは一片ひとひら、はらはらと風に舞って落ち、地上を点々とはなやかにいろどってゆき、それはさながらピンク色の絨毯のよう。秋の乾燥と冷気によって、朽ちるのも遅いので、散ってからの余韻もしばし楽しめるのです。
ちなみに山茶花は日本原産。もともと本州西端から沖縄に自生していたそうですが、都人の目にはふれなかったことから、古歌には登場せず、園芸品種が出回ってからの近世俳諧時代に多く採り上げられています。野生種の山茶花は、6~7枚の花びらを持つ白色の一重咲きなのだそうです。
松阪市の天然記念物「粥見の山茶花」など全国に山茶花の名所も
茶畑にせり出すような粥見地区の山茶花は、氏神さまのご神木として、個人の所有者によって代々大切に守られてきたもの。今では、樹の高さは約12メートル、幹まわりは約1.5メートル。南北に約15メートル、東西約11メートルに枝を広げ、その葉も枝も覆い尽くさんばかりにいっせいに咲く花の盛りの時季は、まさに薄紅色の花のドームのよう。その下に佇み、甘い香りに包まれる夢のひとときを体感しに、訪れる人が多いとのことです。
花の時期は、例年11月上旬から12月上旬。満開のころの麗しさもさることながら、木漏れ日のなか花の一輪一輪がくっきり際立つ咲き始めもよし。音もなく散った花びらが道を見事に染めるさまもよし。訪れたその日、その瞬間の風情で優しく迎えてくれそうです。
手がかじかむように気持ちもちぢんでしまいそうな朝、この花に出会えば、ぽっと心に灯火がともるよう。
寒いからこそよりいっそう花の命の温もりがとてもありがたく、あはれに思える、立冬のころとなりました。