終戦日風の行方のくさかげろふー8月15日の歳時記
靖国神社上の夏空
水脈の果て炎天の墓碑を置きて去る
沖縄県 喜屋武岬からの眺め
・水脈(みお)の果て炎天の墓碑を置きて去る
1946年の引き揚げの際に、遠ざかる島を艦上から見つめて詠まれた句です。
・黒い桜島折れた銃床海を走り
・沖縄を見殺しにするな春怒濤
・相思樹空に地にしみてひめゆりの声は
金子さんは、戦後訪れた各地で平和への思いを表現しました。上記の沖縄についての二句も、晩年のもの。沖縄では、戦争末期の1945年4月から3ヶ月間の地上戦となった沖縄戦の、終結した6月23日を「慰霊の日」としています。この日を表した「沖縄忌」は、夏の季語。立秋を過ぎた終戦記念日は、初秋の季語となります。俳句に圧縮された情報は、私たちが昭和20年の沖縄の春、夏、秋に思いを巡らすことを助けてくれるのです。
・彎曲(わんきょく)し火傷し爆心地のマラソン
最後の句は、戦後10年以上を経て、金子さんが長崎勤務時代に創作し、代表作の一つとなったもの。眼前のマラソンの列、自身の記憶、原爆への怒り、長崎の人々への眼差しが、破調のリズム感とともに表現されています。
来てみれば特攻基地の猫じゃらし
知覧特攻平和会館
・来てみれば特攻基地の猫じゃらし
・沙羅の花月光を弾く学徒兵
・蛍にも神にもなれず蝉時雨
・晩夏光昭和の遺書を閉ぢにけり
・赤とんぼ特攻基地に誰もゐず
「猫じゃらし」は、別名狗尾草・犬ころ草などとも言われる植物で、秋の季語。全国の何処でも見かけることができます。当時の特攻基地でも、風に吹かれていたのでしょうか。
堪ふる事いまは暑のみや終戦日
狗尾草
・終戦日妻子入れむと風呂洗ふ
〈秋元不死男〉
・堪ふる事いまは暑のみや終戦日
〈及川 貞 〉
・終戦日沖に流るる雲ばかり
〈渡邊千枝子〉
・終戦日風の行方のくさかげろふ
〈有馬籌子〉
・遺されし母も逝きけり終戦日
〈古賀まり子〉
・終戦日その夜の母の子守歌
〈松尾節朗〉
【句の引用と参考文献】
『新日本大歳時記 カラー版 秋』(講談社)
『カラー図説 日本大歳時記 秋』(講談社)
『第三版 俳句歳時記〈秋の部〉』(角川書店)
黒田 杏子 (著・編集) 金子 兜太 (著)『存在者 金子兜太』(藤原書店)
角川 春樹 (著) 『JAPAN―句集』(文学の森)
知覧はお茶の産地でもあります