今日は土に触れてはいけない!? 収穫を産土(うぶすな)の神に感謝する秋の社日(しゃにち)
五角柱が独特の「社日塔」。社日の祭礼が盛んであった当時の遺構です
春のものを春社、秋のものを秋社ともいい、土の神であることから、春・秋それぞれの彼岸日にもっとも近い十干の陰陽五行で「土」の「陽(兄)」にあたる「戊(土の兄/つちのえ)」の日を社日と定めました。今年の秋社は9月23日となっており「地神講(じがみこう)」「お社日様」という祭祀・寄り合いが行われます。また、やはり土の気と関係のある土用の忌日と同様、その日は土をいじってはならず、農事は休みとされます。もし破れば、土地神の怒りを受けるとされました。
四国徳島県では春と秋の社日に「お地神さん」という祭礼が行われます。地域すべての講中(村の寄り合い)が集まり、地神塔と呼ばれる五角柱の石塔に注連縄を張り、供え物をして手厚く神事を行います。徳島県には何と県内に2000基もの「地神塔」があるといわれ、全国でも特異な信仰文化を今に伝えています。これは江戸時代、寛政二年(1790)に時の徳島藩主・蜂須賀治昭が全域に地神塔(塚)を建て、春秋の社日に地神祭を行うようにと命じたためと言われています。各地に社日塔(地神塔)が建てられるようになった時期と前後しており、どうやらその時代、地神・産土神の信仰が大きく流行したようです。
現代でも全国あちこちに、庚申塔などに混じり、社日塔が見受けられます。「五社さま」「社日さま」とも呼ばれ、農村共同体が今も残る地域では大切に扱われています。五角柱のそれぞれの側面に一柱ずつ、つごう五柱の神の名が刻まれています。正面にあたる側面には天照大神(殖産・農業の祖神)の名が記され、他の四面には、埴安媛命(はにやすひめのみこと・土の祖神)・倉稲魂命(うかのみたまのみこと・穀物神・稲荷神)・大己貴命(おおなむちのみこと・オオクニヌシの別名・国土守護の神)・少彦名命(すくなひこなのみこと・五穀徐疫の神)が刻まれます。
農事や作物とかかわりのある神格が、産土に習合されて祭られたものです。
往還する田の神=山の神が社日神である産土? いったいなぜ?
フーテンの寅さん
また、家を新築するときにそれに先立ち行なわれる「地鎮祭」、産土・土地神に守護祈願しているのではありません。人間の建てた建物を守護する、もともとは中国の寺院に祀られた伽藍神が起源の鎮守の神に、上に建物を建てることで土地の神(産土)が祟らぬようにとおすがりしているのです。
つまり産土は「産土荒神」「臍の緒荒神」などの荒ぶる神の別名もあるごとく、決して人間の都合や幸福のためにいる神ではなく、人の行いによっては厳しく祟ることもあるのです。ですから人は、その土地で生まれると、産土様に「挨拶」に行き、仁義を切るわけです。
「わたくし、生まれも育ちも東京葛飾柴又。帝釈天で産湯を使い、姓は車、名は寅次郎、人呼んで フーテンの寅 と発します。」ご存知「男はつらいよ」のフーテンの寅の自己紹介の口上です。ここで語られる産湯は、その土地の産土の領域から湧く水のことで、産湯をかけることで子供の体を清め、土地神にその土地で生まれた子供であることを認めてもらうことになります。洗礼に似た儀式ですね。日本中を漂泊する流れ者の寅次郎ですが、どこへ行こうとも彼の体は柴又帝釈天に祀られる産土様とつながっているのです。産土と人とのかかわりは、その人がどこに転居しようとも一生続くとされています。
産土はその土地からはなれず、というよりも土地そのものの神格化であるといえるでしょう。
実は産土神とは、いわゆる日本神話に登場する名前を持つ人格神や、部族の氏神・守護神といった人間の文明社会が形成されるより前、山であり川であり森といった地形そのものを素朴に恐れ敬い、信仰していた時代の古い神の姿。ですから特定の人格的な名称や神像としてのイメージを持たないのです。そのため、後から現れたさまざまな具体名を持つ神々が、次々と習合されていくことができる、というわけです。天狗や河童といった異界の存在にも擬せられる山の神・田の神も、我々人間と同様、「産土」に生かされており、それを媒介にして人に恵みをもたらすことができる、ということなのでしょう。
はるかに遠い雲南省に産土様の故郷が?
そして何より面白いことに、白族の民間伝承には、「桃太郎」「一寸法師」「瓜子姫」といった日本の昔話と似通った伝承があり、これは民俗学で「水辺の小サ子説話」に分類される物語なのです。社日塔に、海から渡ってきて海の彼方にかえってゆく「小サ子」=少彦名命が五柱の神の一柱として数えられていることは先述しました。これは、産土が本主とかかわりのあることをしめす証拠ではないでしょうか。
ご近所の村にも、在りし日の社日講の名残である「社日様」が彼岸花に埋もれつつひっそりとたたずんでいるかも? 散歩がてらさがしてみてはいかがでしょうか。