そのふさぎの虫、もしかしたら・・・春土用の効用と戒めを知ろう
新緑がまぶしい季節。なのに気分はブルー
「ウナギを食べる日」にあらず! 土用とは季節の生まれ変わりの混沌期
しかも最近では、商魂たくましく「土用は夏だけではありません!一年に四回、季節ごとに土用があります! 春夏秋冬、土用の丑にウナギの蒲焼を食べて元気になろう!」などと宣伝している業界もあるとか。土用が一年に四回あることは本当です。立春・立夏、立秋・立冬それぞれの、直前約18日間が「土用」です。
だがしかし、です。土用はイコール丑の日でもないしもちろんウナギの日でもありません。まったく別の意味が本来あるのです。
生物だけでなく、季節も五行により形成される
うのつく黒いもの
さて、ではこの「土用」とはどんな日なのでしょう。土用の期間は、土をつかさどる陰陽道の神様「土公神(どくしん・どこうしん・どこうじん)」「土公様(どこうさま)」の力が強くなり、土いじりや穴掘り、農作業、工事など、土に関わる作業を慎まなければならない、とする習慣がありました。もしこの戒めを破れば、土公神様の怒りを買い、病気になったり不幸が舞い込むとされました。仏教の「堅牢地神」(けんろうちしん=地天)、民間信仰の竈神や三宝荒神とも同体とされ、産土(うぶすな)様とも習合し、農耕生活の中で、きわめて生活に密着した神として信仰され、おそれられてきたのです。土用には「間日(まび)」が設けられて、その日には土を動かしてよい、ともされていますが、基本的には忙しく立ち働いたり派手な行動、新しいことをはじめたりすることを控えて、身を謹んで静かにすごす「養生期間」なのです。
どうして金貨を掘りだすのは犬なのか・五行と土用と十二支の関係
ここ掘れわんわん!白犬はお約束
ただし、それゆえウナギを食べるのは夏の土用限定の養生法であり、他の季節の土用にやっても道理に合わないことになります。
では春の土用は、どんなものを取るのが縁起がよく健康に繋がるのか。上記の「夏の土用・丑の日のウ」と同じ理屈であてはめてみますと、春土用を支配する五行は「木」であり月は辰。よって対極にあってもっとも減衰しているのは秋の五行である「金」で、持ち色は白。そして辰の対極の「戌」(いぬ・犬)。
皆さんは「花咲かじいさん」の昔話をご存知でしょう。「ここ掘れワンワン」と、土(!)を掘れとおじいさんに勧める「ポチ」は白い犬。そして大判小判(金)が出てきます。実はこの話は、子供向けの話を装って、陰陽五行の思想を隠れテーマにした物語になっているのです。
話が脱線しましたが、ですから春の土用には、「戌の日」に、「金の五行の作用をもつ」「イのつく白いもの」を食べるのがよいことになります。もっとも、ものの名前というのは変化が大きく、単なる語呂合わせにすぎないので「イのつくもの」にはあまりこだわる必要はないともいえますが、それでも縁起をかつげるに越したことはないですね。
春土用にはこれを食べて「五月病」を吹き飛ばす!!イのつくものと白いもの
これも、いのつく白いもの
「金」の五行の作用があるものは、たとえば木の実や種、つまり果物や穀物など。この季節で言えばそろそろビワやイチジク、プラム類でしょうか。
5月といえばすでに麦秋、つまり新麦の刈り入れも始まります。麦を原料にした粉ものやパン、もちろんお米も、大豆食品である豆腐も条件にばっちり。白いねぎをたっぷり載せていただきましょう。
変わったところでは山菜のイタドリ。ちょうど今頃4月の中旬から後半、野原にアスパラのようににょきにょきと出てきています。「い」がつきますし、漢字で書くと「虎杖」。秋の守護獣である「白虎」とも縁起がかつげます。
高知県などでは今でも盛んに食べられていますが、かつては日本全国どこでも食べていた春の山菜です。新芽はやわらかく、生で食べるとセロリか蕗にも似たさわやかな酸味があります。ただシュウ酸を含みちょっとえぐみもあるため、石灰水とあら塩で揉めばえぐみを取って食べることもできます。
大根葉のように細かく刻んで炒め、砂糖、醤油、酒、みりん、ごま油等でキンピラ風に味付けし、鰹節を振りかけるとご飯の絶好のおかずに。また、新芽を茹でて冷水に晒し、麺つゆと一味唐辛子の出汁に半日ほど漬けこむとめかぶのようなぬるぬるしたとろみがにじみでてきて、ツルツルとした食感を楽しめる逸品に。秋田では「さしぼ」という名で、水煮にしてから味噌汁の具に入れるとか。
また、イのつく魚介類も春から初夏が旬というものも多いもの。残念ながらイセエビは禁漁期に入り、イワシも入梅イワシの時期はもう少し後ですが、イカ、とくに特にコウイカは春から初夏、大きく成長し肉厚となりとてもおいしくなります。白いイカは最高に縁起がいいのでは。
イサキもこれからの時期が旬。日本海側は新潟県以南、太平洋側は千葉県以南の磯に多く棲み、白身の味は絶品。稚魚、幼魚は「瓜坊」と呼ばれます。
塩焼きがスタンダードですが、こりこりしていながらなめらかな刺身は本当に美味です。
磯釣りの王様、イシダイも産卵期の春から夏が旬。しっかりとしまった身は、「金」の性質にも合致します。アラからはとてもいい出汁が出ます。
これらのものを食べたら、健康も運気も上り調子になるかも?
これらのことは昔の人の「迷信」と思う向きもあるかもしれません。でも実際、「土用」にあたる時期には風向きが不安定となり、土中のバクテリア量や雑菌が増殖する、という研究もあったりして、あながちバカにはできないもの。ゴールデンウイークの行楽シーズンですが、心の片隅に春土用のことを心にとどめて、遊んだ後はきれいに片付けて土地神様に感謝して帰るなど、心がけてみるのも大事なことかもしれませんね。