12月の詩歌 ── いろいろに思い出される2017年もあとひとつき月です
〈マスクして弱い心を覆ひ得ず〉
社会的にワイドショーなどで連日取り上げられるニュースはたくさんありましたが、みなさんも冬の冷たい空気の中で、あれもこれもできなかったなあ、来年はどんな年になるだろうか、などと考える機会も多いことでしょう。
今回はそんな時季の情緒を描いた詩歌・俳句を中心に選んでみました。ちなみに12月は師走、極月とも呼ばれます。
なんかと、せわしない年の瀬
〈日記買ふ未知の月日に在るごとく〉
日もどんどん短くなっていきます。新しい年の準備や一年の締めくくりの行事がたくさんあります。そんな中で、桂信子の句、身の回りのものはすべて塵にすぎない、と言い切ってしまう潔さはうらやましいくらいです。
〈行く年や猫うづくまる膝の上〉夏目漱石
〈暮れてゆく年なり飯を食べてゐる〉太田鴻村
〈十二月どうするどうする甘納豆〉坪内稔典
〈冬薔薇や賞与劣りし一詩人〉草間時彦
〈本買へば表紙が匂ふ雪の暮〉大野林火
〈日記買ふ未知の月日に在るごとく〉中村秀好
〈月まぶし忘年会を脱(のが)れ出て〉相馬遷子
〈庭師来て冬の形をつくりだす〉平井照敏
〈忘年や身ほとりのものすべて塵〉桂信子
〈わが丈にあまる一枚ガラス窓磨けば冬の海鳴りはじむ〉。最近の窓ガラス掃除は、こんな光景も当たり前に
〈くさめしてしらじらとあるおもひかな〉長谷川ふみ子
〈咳の子のなぞなぞ遊びきりもなや〉中村汀女
〈マスクして弱い心を覆ひ得ず〉佐東聖一
〈わが丈にあまる一枚ガラス窓磨けば冬の海鳴りはじむ〉今野寿美
この歌は大掃除の情景かもしれませんが、日常の中にふいに発見される非日常を描いています。何か不穏な雰囲気もあります。
とくに俳句は短いだけに、夢のような謎めいたドラマを感じさせることがあります。冬の句の中にもこんなものがあります。冷たい空気が緊張感に満ちた空間を作ります。
〈蝶墜(お)ちて大音響の結氷期〉富沢赤黄男
〈夢に舞う能美しや冬籠(ふゆごもり)〉松本たかし
〈人影もなく湯豆腐の煮えてをり〉岸本尚毅
風花が舞い、雪が降る──そしてクリスマス、大晦日
〈大年のオリオンを妻よろこべり〉
〈霜の刃を踏めば無限の空が鳴る〉石原八束
〈かぎりなく降る雪何をもらたすや〉西東三鬼
〈雪日和たたみ鰯の目の碧き〉長谷川櫂
〈みぞるるや雑炊に身はあたたまる〉飯田蛇笏
〈風花の大きく白く一つ来る〉阿波野青畝
そしてクリスマス、大晦日がやってきます。大晦日のことを「大年(おおどし)」ともいいます。
〈見つめよと置くともしびやクリスマス〉千葉皓史
〈大年のオリオンを妻よろこべり〉志城柏
── みなさんはどんな一年でしたか? 2018年もよい年であるといいですね。