「穀雨」煙るような雨が降り始めると、そろそろ春は終わりに近づきます
晩春の雨「穀雨」とは百穀、数多くの穀物を潤す雨のこと
粟の穂のみのり
春になって降るあたたかな雨がこれからの田畑にとっていかに大事であるかに思いが至ります。ひと雨ごとに大地に芽吹いた双葉や、木の芽の輝きがしだいに緑を深め大きくなっていく姿が、私たちの目にもあきらかにわかる時節です。
お米を作っている方のお話では、雨の時には雨の時の仕事があり、目の前の仕事をていねいに行うことで、どのような環境が来ても慌てることはない、とのことでした。自然と向き合うお仕事を長年続けられた地に足のついた手堅いことばは、職業が違えど誰の心にも響く説得力があり、大切にしたいと思いました。
秋の実りに向かう春の雨、まだまだ冷たいですが恵みの雨とよろこんでまいりましょう。
参考:気象庁ホームページ、各種データ資料は下記リンクにて
「花の雨」や「花時雨」と風情のある雨もあります
牡丹の花
「春雨の花の枝より流れこばなほこそ濡れめ香もやうつると」 藤原敏行朝臣
流れ来るほどの雨のしずくに濡れて花の香りをわが身に移したい、とはどのような天候であっても桜の花の風情を楽しむ桜花への思いが伝わってきます。
春は次々と花が開きます。ハナミズキ、キンポウゲ、カタバミなど身近な場所に咲く小さな花を見つけると、その愛らしさにフッと心が癒されます。いっぽうで百花の王ともいわれる「牡丹」もまた花の時を迎え堂々とした咲きぶりに多くの人が魅了されます。小さな花も大きな花もたっぷりと降りそそぐ春の雨に育てられているのだとあらためて気づかされます。
参考:
倉嶋厚・原田稔編著『雨のことば辞典』講談社学術文庫
たっぷりと春の雨がそそがれて始まるのは?
「新茶の封切つてこの世へ移しけり」 水田光雄
新茶に対する厳かな気持ちが「この世へ移しけり」に表れています。封を切ったばかりのお茶の香りそして味はどうでしたか、と聞いてみたい気持ちになりました。
「素跣(すはだし)の新茶売や宵の雨」 寺田寅彦
できあがったばかりの新茶をいち早く届けたい気持ちが、雨にもかかわらず「素はだし」というところに感じられます。寅彦先生もきっと時をおかずに味わったことでしょう。
コーヒーを飲む習慣が日常生活にすっかり浸透しているこの頃です。「お茶はペットボトル」という方、確かにペットボトルのお茶は美味しいです。ですが、せっかくの一番茶が味わえるチャンスを逃すのももったいない。お湯を沸かし適温に冷まして急須でいれてお茶を楽しむ、というのはいかがでしょうか? 春の雨をたっぷり吸った瑞々しい茶葉はまさに時の香りと味わい。逃さず季節をとらえてみませんか?
春の雨「穀雨」はやって来る夏のエネルギーへ、大きな力となっていっています。