二十四節気「春分」は、自然をたたえ生物をいつくしむ祝日「春分の日」
日天の中を行きて昼夜等分の時なり…「春分」は彼岸の中日
日本では、国民の祝日「春分の日」と制定され、その意義は“自然をたたえ生物をいつくしむ”祝日とされています。また春分は、「彼岸(ひがん)の中日」とも呼ばれ、西の彼方にあるとされる「西方浄土」と交わる日。古来からあった豊作を願う太陽信仰の名残に、仏教の彼岸会(ひがんえ)が重なり、先祖供養ための寺参りやお墓参りが盛んになったと言われています。
お墓が遠方にあってなかなか行けない方は、お彼岸のお菓子ぼた餅(秋はおはぎ)をお供えして、近隣のお寺へお参りしてみてもいいかもしれません。東京から少し足を伸ばすなら、鎌倉のお寺巡りなども一興。季節の花を愛でたり、著名人のお墓に手を合わせたり…暖かい陽差しに包まれてゆっくり散策を楽しむのも、心安らぐお彼岸のいい過ごし方といえそうです。
桜に先駆けて咲く辛夷(こぶし)の花は別名「田打桜」
桜に先駆けて咲くことからか「田打桜」とも呼ばれ、辛夷の開花が田を耕す目安にもなったのだそう。春ののどけき青空に、くっきり映える純白の花が端麗な辛夷。その清廉な美しさは、見る者の胸をはっととらえ、春の訪れを確信させます。
春の訪れの指標となる花の一つ「タンポポ」
ちなみに、セイヨウタンポポとニホンタンポポの見分け方は、花の下にある“がく”の部分を観察すればOK。セイヨウタンポポでは下へ反り返り、ニホンタンポポでは上に向かって、花を覆うように立っているのが特徴的なのだそうです。白い花を咲かせるシロバナタンポポも(北九州や中四国では珍しくないようですが)、見かけるとちょっとうれしいものです。
間近に迫った花見の予定もそろそろ気になる頃
「五風十雨の平穏や、豊饒を祈る農家の人々の心のささえとなった」という神様「社日さん」が出てくるのは、島根出身の名陶芸家・河井寛次郎が綴った「社日桜」という随筆。その中には、社日さんの石碑の傍にあった一本桜が、「近くでは一面に花しか見えず、遠くからは大きな白雲の様だった」という情景が描かれています。やがてその桜が枯れた後…人々は一番派手で一番成長の早い木を選んで植え、丘一帯が今では桜と化したことが綴られた後、
~染井吉野は、そういう花にちがいなかった。然し、この丘を一つ越した次の丘の段々畑や、山の麓の農家の軒先などには、ひとりあるともなしに咲いている山桜などが、人に代って、静かにゆく春を惜しんでいる事は、昔と少しも変らなかった~
そう文章を結ぶ河井寛次郎。艶やかに日本全土を覆う染井吉野の麗しい桜景とはまた趣を異にして、ひっそりとはんなりと咲く山桜。その花の風情に今年の春はもっと目を向けてみたいと、心にそっと誓う春分となりました。
河井寛次郎「社日桜」