七十二候「寒蝉鳴(ひぐらしなく)」。カナカナカナと聞こえるのはなぜでしょう?
カナ・カナ・カナ・奏・哀・金・哉・叶・・・
大声で歌っているオスは、本気で婚活中!! 種によって鳴き方が違う理由とは
たいてい姿は、見えません
セミはその種類によって、鳴き声もさまざま(関連リンクで聴き比べできます)。セミの歌は、その種独特の強弱・高低のリズムをもっていますよね。これは、おなかを動かすことによって、共鳴室の空気量や形・容積が変わり、さらに筋肉や関節、腹弁の作用なども加わって、音がつくられているからなのだそうです。まさに体が楽器、その種固有の体形や動きの変化が、歌の違いにあらわれていたのですね!
木にとまって鳴いているオスは、メスが飛んでくるのに気づくと、遠くのメスを呼んでいたときとは鳴き方を変えるのだそうです。人間にわかる変化だけでなく、セミ同士にしかわからない恋の駆け引きも展開されていそうです。歌うオスと聴き惚れている(たぶん)メスのツーショットが見られることも! 少々うるさいかもしれませんが、本気の婚活を温かい目で見守ってあげたいですね。
秋の季語にもなっている「寒蝉(ヒグラシ)」。梅雨から歌っていたなんて!?
夏の終わりに咲くヒマワリ
セミの種類によっては、鳴いているオスのそばで別のオスが「ジュ!ジュ!」などと妨害音を出して邪魔することも(ここで鳴く順番を待ってるんだから早くして‼︎ ということのようです)。けれど、ヒグラシはみんなで一緒に歌うタイプ。しかも、合唱しつつも個体によって鳴き声に高低の違いがあるともいわれています。音楽的に繊細なセミなのかもしれませんね。
セミは、その種類によって鳴く時期や時間帯も違います。秋の季語になっているヒグラシですが、じつは秋どころか、梅雨くらいからずっと鳴いているのでした。ヒグラシは暗く木が茂った山の中で、朝早くまだ暗いうちか、夕暮れに歌います。日中でも、雨が降りそうに暗くなり、気温が下がると「カナカナカナ」と涼しい声で鳴きはじめるのです。こまかく鈴を振るような澄んだ響きは、まるで秋の虫が翅を擦り合わせて出しているかのよう…そんな「夏の終わり」を感じさせる声が、「寒蝉」と呼ばれる理由になっているようです。
「ケケケ」でも「キキキ」でもなく「カナカナカナ」と聞こえるのはなぜ?
寒いときゅうに心細くなり
鳴き声の音源だけでは「カナカナとは聞こえん…むしろケケケゼミ?」という印象しかもてなかった人も、実際に鳴いている風景のなかでは「カナカナ、なるほどね」と感じやすくなるようです(関連リンクの動画でもお試しください)。セミは、実際には1ヵ月くらい地上で生きるともいわれていますが、飼育が難しく、人の世界ではあまりに短命。昔から日本人は、セミに儚さや哀しさを重ねてきました。空想を広げれば…ヒグラシの、もの哀しく金属的で涼やかな、切ない音色に「奏・哀・金・哉・・・」などとイメージを浮かべ、日本特有の表音文字(仮名文字)で読みの「カナ」と表現したとしても、不思議ではありません(あくまで空想です、念のため)。しかも、古文の「かな」は詠嘆。やがて夏は過ぎていくのだなあ〜と、日本人をしみじみさせる鳴き声ですものね!
もしもヒグラシが夕暮れに鳴くセミではなかったら、同じ音色で歌っていたとしても、「寒蝉」「カナカナゼミ」とは呼ばれていなかったことでしょう(「ケケケゼミ」または「キキキゼミ」だったかも!?)。お祭り・花火・セミの声…夏休みの風景と音のなかに小さい秋をみつけて味わうのも、大人ならではの楽しみかたかもしれません。
夏の音、憶えているかな
『セミの自然誌』中尾舜一(中公新書)
『子供の科学のWEBサイト「コカねっと!」』