白酒・甘酒・桃花酒・・・あのひなまつりの思い出は、カン違いだったのでしょうか?
白いお酒に浮かぶ紅い花。めでたさ満開です
3月は桃の生命力。桃花酒から白酒へ
「左近の桜・右近の橘」。もちろん天皇から見ての左右なのですね
室町時代には、桃が「百歳(ももとせ)」に通じることから、酒に桃の花を浮かべた「桃花酒(とうかしゅ)」を飲む風習があったといいます。
旧暦の3月はじめは、日本人の大好きな桜が満開。それでも「ひなまつりには桜の花」とはならなかったのです。
「桃」の漢字は「木」と「兆(きざし)」。占いで焼いた亀甲の割れ目を表す象形文字です。物事の前触れや始まり、ふたつに割れるという意味から、女性の妊娠・出産と結びついたといわれます。
桃・李(すもも)・梅・杏を中国では『四種果実』といいますが、どれも漢字のパーツが妊娠・出産や母親を表しているのだそうです。桜にはそういう意味がないので、女の子の節句としては不適切とされたのでしょうか。とはいえ 桜も橘とともに「左近の桜・右近の橘」として雛壇の両側を守っています。
桃は中国では不老長寿の薬「仙人の果実」として、実・葉・枝・樹皮などあらゆる部分が漢方薬となり、神への供え物となりました。日本でも、卑弥呼の時代の遺跡などから 祭祀に使われていたと思われる大量の桃の種が発掘されています。桃は生命力の象徴、厄よけの果実だったのですね。
3月は、桃の香りで元気に過ごせそうです。
人気すぎて命が危険!! チケット制の白酒とは
向かって右側にいるこのお方。じつは赤いお顔の「左大臣」なのです
じつは、現代人で白酒を飲んでいる人は意外と少ないのだそうです。とくに「子供時代ひなまつりで飲んでいた」という方は、その思い出がカン違いである可能性大!?
白酒は、蒸したモチ米(もろみ)の飯粒をすりつぶし、麹とみりんまたは焼酎を入れ、一ヶ月くらい熟成させたもの。甘く特有の香りと濁りがあり、アルコール分も10%前後ある、立派なお酒なのです。酒税法上の「リキュール」に該当し、家庭で作ることは禁止されています。いくら昔は少々緩かったといっても子供の飲酒じたいが法律違反・・・もし合法的に家で作って飲んでいたなら、それはたぶん「甘酒」です。
白酒は江戸時代に誕生しました。中期には商店のほか「振売(ふりうり)」が天秤棒を担いで売りにきたといいます。後期になると、大きな酒店で買うのが主流に。なかでも鎌倉河岸(現在の千代田区内神田)『豊島屋』の白酒は江戸っ子の口に合い、「山なれば富士、白酒なれば豊島屋」と詠われるほどの超人気店だったようです。初代店主の夢枕に 紙びなが現れて、白酒の製法を伝授したのだとか。
ひなまつりを前にした2月25日には、白酒だけを大売り出し。たくさんの人がどっと押しかけ、店は大混雑!死者が続出!! そのため店の前に矢来(やらい)を組んで、入り口で切手を販売し奥で白酒と引き換えるという方式(いわゆるチケット制ですね)にしたそうです。さらに八丁堀の同心が出向いて取り締まりにあたりますが、それでもケガ人や気分の悪くなる人が出る恐れがあり、医者を待機させたといいます。どんな味なのか興味のある方は、現在ネット販売もされているようなのでお試しになってみては。
甘酒は2種類。春を浮かべると楽しいですね
とろとろ甘酒煮てます
昔は水車や足踏みでついたモチ米を粥状にやわらかく炊き、麹を混ぜ、甘みを加えて6〜7時間トロ火で温めて作られました。精白した米でないためタンパク質が残り、それを麹菌が分解することで ブドウ糖とアミノ酸の固まりのような栄養ドリンクに! 甘酒が「飲む点滴」といわれる所以ですね。
甘酒は、神話の時代から自家製造されて飲まれてきたといわれています。行商で売られるようになったのは室町時代から。現在は夏の季語ですが、江戸時代前期の俳諧書では冬の季語であり、その後江戸では季節を問わず売られるようになりました。
また、酒の絞りかすである酒粕に砂糖や水・生姜などを加えて作ったものも「甘酒」と呼ばれていますね。 体が芯から温まり美容効果も高いうえ 蜂蜜やミルクを入れたり冷やして飲んでも美味しいので、今ちょっとしたブームです。こちらはアルコール分を含んでいるので、飲みすぎにはご注意を。
「桃花酒」「白酒」「甘酒」。どれも もともと、ひなまつり1日だけに限らず楽しまれてきた滋養ある飲み物でした。3月は、ドリンクに桃の花びらを浮かべて飲むのも楽しいですね。白酒・甘酒、白い乳酸菌飲料や淡い色のジュース、透明な炭酸飲料、白ワインや日本酒・・・春のおとずれに、ピンクのエネルギーをチャージしてみませんか。
『浮世絵で読む、江戸の四季とならわし』赤坂治績(NHK出版新書)
『イラストでわかるおうち歳時記』三浦康子・監修(朝日新聞出版)