七十二候『梅子黄(うめのみきばむ)』。熟した梅が癒すのは・・・
花も実もある木でした
梅のことを考えると、「のどが潤う」のはなぜでしょう
唾液は、口や胃の粘膜を刺激の強い食品から守るために出るといわれます。とくに塩味と酸味に反応し、まさにその両方を兼ね備えている梅干しは、レモンの倍もの唾液量を分泌させるのだそうです。酸っぱいものは食欲もわきますね。
歴史物語『三国志』で知られる「梅林止渇」という故事があります。
昔の中国、魏の曹操が張繍征伐に出向いた時、炎暑の中を行軍していて道に迷い、水もなく兵士は渇きに苦しみだしました。曹操はとっさに「この先に行けば、小梅の熟した梅林がある。それを思う存分食べて、渇きを癒せ」と偽って進むうちに、兵士は皆、口の中に唾液が出て、喉の渇きを忘れることができたというのです。
体内の水分量が増えるわけではないでしょうが、酸っぱいものを想像して出る唾液はサラサラしているので、一時的にせよ喉は潤って元気が出たのかもしれません。非常の際は試してみたいと思います。
唾液には、酵素が含まれています。
エネルギー源となるご飯やパンのでんぷんの消化をたすける「アミラーゼ」。ガンや老化の原因となる活性酸素を抑える「カタラーゼ」。抗酸化食品としても、梅干しは大活躍なのです。殺菌効果をもつ唾液がよく出ることで、歯も汚れにくくなります。
熟した梅は、うるおいと若さを保つ手助けをしてくれるのですね!
ごはんの真ん中に、今日一日の祈りをこめて
まるくて赤いお守り
梅干しが酸っぱいのは、クエン酸が多く含まれているため。梅酢に漬け込み、干して凝縮されて、さらに強烈な酸味になるのですね。
クエン酸は、一日の「難」から体をまもってくれます。疲れを癒し、食中毒を予防し、乗り物酔いの防止まで! 梅干しほど「お弁当」にぴったりの食べ物はありません。『日の丸弁当』や遠足のおにぎりに入っているのは、理にかなった昔ながらの知恵だったのです。旅館の朝ごはんに梅干しが出されるのも、旅立つ人の無事を祈って送り出していた名残といわれます。
江戸時代後半に本草学者・小野蘭山によって書かれた『飲膳摘要(いんぜんてきよう)』では、「梅干しの七徳」が紹介されています。
【梅干しの七徳】
1.毒消しに効あり。ゆえにうどんには必ず梅干しを添えて出す。
2.防腐に効あり。夏は飯櫃の底に梅干し1個を入れておけば、その飯は腐らず。
3.疫気を避けるに効あり。旅館では朝食に必ず梅干しを添えるを常とする。
4.その味かえず。
5.息づかいに効あり。走る際、梅干し1粒口に含めば息切れず。
6.頭痛を医するに効り。 婦人頭痛する毎に梅干しをこめかみに貼るを常とする。
7.梅干しよりなる梅酢は、流行病に効あり。
体験に基づいた効能は、説得力がありますね。のちにコレラが大流行したときも、江戸の人々は「コレラ菌は有機酸に弱い菌である」などということは知らなくても、梅干しの殺菌力を治療に役立てたといいます。
じとじと蒸し暑い日が続くと食欲もなくなりがちですが、一粒の梅干しで元気をチャージしたいですね。海苔とネギとともに食べると、さらに効果的なのだとか・・・今夜は手巻きずしなどいかがでしょう。
梅干しを使ったレシピは、リンク先も参考になさってくださいね。