台風シーズン真っ只中!今年の台風の傾向は?PR
サイエンス
発生が遅かった台風1号、その後は台風がスピード発生、Uターン台風10号など、今年の台風シーズンは異例ずくめ。日本気象協会の気象予報士 吉田直人が、今年の台風傾向を解説します。
記録的に遅かった台風1号の発生
2016年の台風1号は、観測史上2番目に遅い7月3日になってようやく発生しました。6月までの半年間、全く台風が発生しなかったという記録的な台風の少なさには、実は昨年の冬に日本にかなりの暖冬をもたらした「エルニーニョ現象」が関係していると考えられています。
エルニーニョ現象というのは、太平洋東部の赤道付近(南米沖)の海面水温が、平年よりも高くなる現象です。エルニーニョ現象自体は限られた地域の海面水温の変化ですが、地球の大気は1つにつながっているため、それに影響を受けて他の地域でも海面水温や対流活動(雲ができて雨が降る空気の流れ)に変化が起きてしまいます。そして、日本付近では例年台風が発生するフィリピン付近の太平洋で台風ができにくい気象状況となり、今年の6月までは台風の発生が少なくなりました。例外もありますが、エルニーニョ現象の翌年は、台風の発生が少なくなる傾向があります。
2号からはスピード発生で、日本に次々上陸
遅かった台風1号の発生後、台風2号の発生も7月24日とゆっくりでした。このまま今年は台風が少ないのかも?と思った矢先、台風3号、台風4号が次々に発生し、気づけば台風2号の発生から1カ月で11号まで発生しました。これは、近年例を見ないほど、早いスピードで発生しています。
さらに、8月中旬には台風が日本付近に北上しやすい気圧配置となり、17日に台風7号、21日に台風11号、22日に台風9号が、次々と日本に上陸しました。これら3つの台風は全て北海道に上陸し、広い範囲で大雨をもたらしましたが、1年に3つの台風が北海道に上陸したのは、1951年の統計開始以来初のことでした。また、台風9号は関東地方にも記録的な大雨をもたらし、各地で土砂災害や浸水害が発生し、鉄道や航空便の運休も相次ぎました。
なお、3つの台風はいずれも似たような進路を通りましたが、これは偶然ではありません。夏の台風の進路は、日本付近の高気圧の位置や勢力に影響を受けますが、今年の8月中旬~下旬は日本の西と東にあった2つの高気圧の位置や勢力がしばらく変わらなかったため、全ての台風が似たようなコースを通ったのです。そのために、泣きっ面に蜂ということになってしまいました。
南進・Uターン・東北太平洋側初上陸…異例ずくめの迷走台風10号
例年にない発生数や進路を取ることが多い今年の台風ですが、中でも台風10号は異例なものになりました。
まず、台風10号は8月19日に八丈島付近の海上で発生した後、8月25日にかけて南西に進み、南大東島付近に達しました。通常、台風は日本付近では北よりに進路を取ることが多く、南に進むのは異例なことです。
さらに、台風は8月27日頃から次第に北よりに進路を変えると、反時計回りの弧を描くように、本州に向かって進んできました。一方向に進むことが多い台風にしてはこれまた異例の、まさに「Uターン」という表現が合う真逆の進路を取りました。しかも、はじめは台風としてあまり勢力が強くなかった台風10号ですが、沖縄付近の海面水温の高い海域に1週間近くあったため、徐々に発達して一時“大型で非常に強い”台風にまで発達しました。
その後、8月29日に本州に再び接近すると、そのまま北上して岩手県に上陸しました。台風が東北地方の太平洋側に上陸するのは、1951年の統計開始以来初めてのことです。例年、日本付近を進む台風は時計回りに弧を描くように北東へ進むことがほとんどですが、今回の台風は逆に太平洋から北西へ進んだため、異例ともいえる東北地方の太平洋側への上陸となりました。岩手県や北海道では台風が海上を進んできたため勢力を保ったまま接近・上陸し、大雨や暴風による大きな被害が出ました。
なぜ台風10号がこのような複雑な動きをとったかというと、南進もUターンも、いずれも日本付近の高気圧による影響と考えられます。はじめ、台風10号は日本の西にあった高気圧の影響を受けたことで、南西の方向に進みました。台風が沖縄付近に到達する頃になると、西側の高気圧の張り出しが弱まり、徐々に台風が停滞し始めます。しかし、今度は日本の東の高気圧が徐々に張り出してきたことで、その影響を受けて次第に進路を東よりから北よりに変え、いつものような北よりの進路を取り始めました。2つの高気圧の盛衰により、台風10号は異例の迷走ルートを辿ったのです。
秋にはラニーニャが発生の可能性、台風への影響は?
今年の秋には、「ラニーニャ現象」が発生する可能性があります。ラニーニャ現象は、エルニーニョ現象とは逆に、太平洋東部の赤道付近(南米沖)の海面水温が、平年よりも低くなる現象です。
ラニーニャ現象が発生すると、「日本の近くで発生して急に日本に近づく台風が多くなる」と言われています。今年の台風11号が分かりやすい例ですが、8月20日9時に日本の東海上で発生したかと思えば、夜には東北地方に接近し、翌21日に三陸沖を北上して北海道に上陸しました。発生から上陸まで、約1日半のスピード台風でした。ラニーニャ現象が発生すると、このような台風が今後増えるかもしれません。急に台風が接近しても大丈夫なように、日頃から災害時の避難方法や連絡手段を確認し、非常持出袋や備蓄品の準備を行うようにしましょう。
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