桜満開!遅咲きの画家が描いた二つの桜も要チェック!
京都・醍醐寺 「土牛の桜」
そんな中、花鳥を愛でた画家・奧村土牛の展覧会が山種美術館(東京・渋谷区)で開催されています。『醍醐』はもちろんのこと、季節と自然を細やかに、且つおおらかに描いた山種美術館のコレクションが一堂に!
遅咲きの画家・土牛、その名の意味するもの
『醍醐』1972年 紙本・彩色・額(1面) 山種美術館蔵
本名を義三と言い、のちに父から与えられた画号が「土牛(とぎゅう)」でした。
丑年生まれだったことと、石ばかりの田をじっくり耕しやがて美田にする…という唐代の寒山詩にならい、じっくりと研鑽を重ねて、画業を究めてほしいという親心が込められた名前です。
この名を与えられた時、土牛は28歳。遅咲きの画家はその名のとおり、じっくりとゆっくりと、画業の道を歩みはじめました。その視線は、常に対象の内側に注がれていました。
曰く、「外面的な写生ではあきたらない…そのものの物質感、詰まり気持ちを捉えることに私は腐心している…」(『美之国』14巻3号 1938年3月)
まさに、牛のごとくに写生も反芻を繰り返し、心でかみ砕き、描いていたことがうかがえますね。名は人なりとはこのことでしょうか。
花鳥画の先に辿りついた二つの「桜」
『吉野』 1977年 紙本・彩色 山種美術館蔵
実際に着手するまでに10年の歳月を要し、さらに、描く前に多くの桜の名所を巡っています。その一つに奈良の吉野山がありました。
土牛と言えば、『醍醐』の桜が有名ですが、吉野の桜を描いた『吉野』も、ぜひ鑑賞していただきたい逸品です。満開の吉野桜の薄紅、春霞に煙る青峰…。花に焦点を絞った『醍醐』、春の景色全体を描いた『吉野』、二つの作品を観ることで、土牛の春を感じることができるように思います。
小さな動物、山、建物、人物など、モチーフは盛りだくさん!
左『白寿記念』紙本・墨書、右『山なみ』紙本・彩色 1987年 山種美術館蔵
特に、動物の絵は目に表情が現れる…と、本人が言っていただけあり、うさぎの絵など、それぞれの目に個性が宿っているようです。この時代の画家の多くがそうであったように、土牛も俳句を嗜みました。徹底的な写生には、俳句ならではの「物に入る」と言う感覚があったのでしょう。残念ながら、土牛の句は展示されていませんが、代わりに絵手紙を観ることができます。山種美術館の初代館長・山﨑種二宛の書簡には、土牛の絵と書が朴訥と言われる人柄のまま今も変わらず、残っていました。
他にも、セザンヌの影響を受けていたことが分かる、静物画や建物、人物画などの描き方の違いにも、土牛がいかに対象の本質を捉えていたかが伺えます。じっくりと、ゆっくりと…美田を耕した一生は百寿を超えて全うされました。
さらに、展覧会にちなんだ楽しみが!
ミュージアムショップでは展示作品をモチーフにしたグッズが、カフェでは特製和菓子も館内で楽しむことができます。和菓子もテイクアウトすることができますので、ご家族へのお土産にすると喜ばれそうですね。
春爛漫…絵を観て、和菓子を味わって、五感全てで春を感じる花の頃を過ごす…などというのも、オツなものではありませんか?
会期:3/19〜5/22
展覧会名 奥村土牛ー画業ひとすじ100年のあゆみー
参考 山種美術館 《於 山種美術館ブロガー内覧会》