さあ、雪だ。「ササラ電車」 出動開始 !! 北海道の市電の軌道を除雪します !!
ササラ電車は札幌と函館だけ。ササラ部分を取りつけるのもまた、初冬の風物詩。
札幌では毎年10月の中ごろになると、ササラ電車にササラ(ブラシの部分)を取りつける作業が行われます。札幌市の交通局で行われるこの作業は報道公開されていて、市民はこのニュースを見ると、「そろそろ冬か…」と思うのです。
函館では毎年11月の中旬あたりから、ササラ電車の試運転を報道公開します。今年は11月26日に試運転が行われ、本格的な雪のシーズンに備えました。普段は雪のない軌道を走っての試運転ですが、公開当日に雪が積もることもあり、試運転がそのまま本番に…ということもあるそうです。
鍋を洗う竹の 「ササラ」 にヒントを得た。1両に800束、年間で8000束のササラを使用。
ササラが回転して雪を掃き飛ばす。1両に800束のササラが使われている。
ブラシのヒントになったのは、「ササラ」と呼ばれる、中華鍋などを洗う竹のブラシです(画像は下記リンク先参照)。
ササラ電車のササラに使われる竹は、主に東北地方の真竹です。長さ28.5cm、直径3.5cmの円筒形。竹の先はそれぞれ2mmの太さに統一されていて、約200本に分かれています。竹の根元は太さ1.2mmの針金で四重に巻かれ、3カ所で固定されています。
サイズや作り方がきっちりと統一されたササラは、1本の木台に50束ずつ打ちつけられます。ブラシはこの木台8本を一組として、回転軸を中心に放射線状に並べられ、車両の前後に一組ずつ、取りつけられます。つまり、ササラ電車1両に、なんと800束のササラが使われています。
札幌のササラ電車は、4両で年間約7,000kmを走ります。ササラはだいたい700km走ると交換するので、ザッと計算すると、一冬でおよそ8000束のササラが使わることになります。ササラを木台や電車に取りつけるのは札幌市の職員が手作業で行いますが、その際、先代からのコツも脈々と伝承されているそうです。
車も人も通る市電の軌道。除雪するのも運転するのも難しいササラ電車。
JRのラッセル車は豪快に雪をかき分ける。
路面電車の軌道を見たことがある人はおわかりだと思いますが、軌道は車も人も通る道路上にあるので、溝が浅めです。この溝の中の雪を積もったままにしておくと、圧雪となってしまいます。北国の場合は気温が低いので、圧雪からさらに氷の塊になってしまうこともあります。このような“目詰まり”は、脱線の原因となってしまいます。
つまり、路面電車の除雪は雪が降り始めた“新雪”のうちに、ブラシ状のもので掃き飛ばさなければなりません。ブラシの回転数は毎分255回転。札幌では冬の間は毎朝4時にササラ電車が出動し、軌道の雪や氷をブラシで掃き飛ばしています。
ササラ電車にササラを取りつけるには熟練のワザが必要になりますが、運転そのものにも難しい技術が必要になります。まず、早朝の雪の状態を確認します。ベタ雪の場合は“掃き出し”に時間がかかるので、早めに出動します。次に、ササラを動かすときは、掃き飛ばした雪が自動車や電停にいる人にかからないように、回転数を調整して進みます。また、圧雪や凍結でレールの溝が埋まってしまった場合には、車輪で慎重に押し割りながら進まなければなりません。ササラがすり減ってきたらブラシ部分の高さを少し下げたり、積雪の深さによって上下させたりもします。
雪が降っても降らなくても、毎朝4時に出動して全線を往復し、除雪と点検を繰り返す札幌のササラ電車。夜中でも雪が降ると出動し、溝が車に踏み固められる前にササラで掃き出すササラ電車。おかげで札幌では、雪が多い真冬の日でも市電が運休になることはありません。そしてそれが、市電関係者の誇りとなっています。
〈参考:「札幌市の路面電車の走行環境について」、平成23年、札幌市営企業調査審議会 第2 回交通部会〉
函館のササラ電車は、明治時代の木造の客車を改造した “レトロ” タイプ。
雪が降るまで車庫で待機する札幌のササラ電車。
函館のササラ電車はもともとは、1910年(明治43年)に造られた大変古いタイプの木造の客車で、1937年(昭和12年)にササラ電車に改造されました。古い車両に修理を重ね、平成の今に至ります。レトロな珍しいタイプですが、最近は大雪の日くらいにしかお目にかかることができません。そのため、26日の試運転にはその“勇姿”を見ようと、道外からも鉄道(?)ファンが見学に来ていました。
これから冬本番を迎えます。北海道の冬の風物詩、「ササラ電車」。雪の多い札幌では、これから毎日、市民や観光客のためにササラ電車が活躍します。雪の少ない函館にもドカ雪が降ったら、その凛々しい姿を見ることができるでしょう。冬に観光などで両市を訪れたとき、この、全国的にも珍しいササラ電車に出会えるかもしれませんね。