「鍋もの指数」をご存知ですか?俳句でも鍋を味わう季節です
鋤焼は、牛鍋ともいいます
鍋もの指数、北から上昇中
鮟鱇(あんこう)鍋、寄せ鍋、牡丹鍋(猪鍋)、おでん、鋤焼(すきやき)、闇鍋などは、明らかな鍋もの。粕汁、干菜(ほしな)汁、葱を具にした根深汁、蕪汁、納豆汁、「とろみ」のあるのっぺい汁、狸汁、江戸時代には中毒を起こすことが多かったという河豚(ふぐ)汁。冬に身が温まる鍋・汁もの料理の季語が、次々に並びます。それだけ昔の人々が、冬の食を楽しみつつ一句ひねることを親しんだ証なのでしょう。何故か「鍋」「鍋もの」という言葉は、季語になっていないようです。
牛鍋に箸ふれ合ひてより親し
牡丹鍋・猪鍋
『北海道・東北ふるさと大歳時記 』角川書店(1992/6)より
・鋤焼や笹も日高の熊の肉 木津柳芽
・牛鍋や紅藍花(べにばな)染めの裾捌き 安保弘子(山形県 銀山温泉)
紅花染めの着物は、山形で有名な美しい草木染の着物ですね。
『甲信・東海ふるさと大歳時記』角川書店 (1993/11)より
・牛鍋に箸ふれ合ひてより親し 石黒澄江子
・牛鍋や俳聖しのぶ水鶏(くいな)庵 武田ちよ (愛知県 佐屋町 水鶏塚)
「水鶏庵」の名は、松尾芭蕉最後の行脚の際の句、「水鶏鳴と人の云えばや佐屋泊」からの銘の様子。水鶏塚には、この句の碑が建てられています。
杉山の墨絵ぼかしに牡丹鍋
鮟鱇鍋
『第三版 俳句歳時記 冬の部』角川書店 (1996/10)より
・大根が一番うまし牡丹鍋 右城暮石
・猪鍋の大山詣くづれかな 石田勝彦
・夜の湖(うみ)のたちまち靄に牡丹鍋 斎藤梅子
・杉山の墨絵ぼかしに牡丹鍋 木内彰志
・猪鍋に酒は丹波の小鼓ぞ 宮下翠舟
・猪鍋やまだをさまらぬ山の風 落合典子
猪の肉を食するシーンには、やはり都会よりも山の奥深い、しんとした空気感が似合います。
ほかの部屋大いに笑ふ鮟鱇鍋
通年の国民食、おでん
『第三版 俳句歳時記 冬の部』角川書店 (1996/10)より
・ほかの部屋大いに笑ふ鮟鱇鍋 深川正一郎
・鮟鱇鍋酔の壮語を楯として 小林康治
・ひとりごちひとり荒べる鮟鱇鍋 森澄雄
・鮟鱇鍋戸の開けたてに風入りぬ 舘岡沙緻
・沖の灯と見えて星出づ鮟鱇鍋 中 拓夫
俄か寒おでん煮えつつゆるびけり
『第三版 俳句歳時記 冬の部』角川書店 (1996/10)より
・俄か寒おでん煮えつつゆるびけり 水原秋櫻子
・おでん煮てそのほかの家事何もせず 山崎房子
・夫(つま)あらば子あらばこそおでん種 角川照子
・おでんやのうしろに夜の波止場あり 鮫島春潮子
・おでん酒貧乏ゆすりやめ給へ 倉橋羊村
そして、おでんが大好物だったのが高浜虚子。
『高浜虚子句集』Kindle版 久栄堂書店(2014/12) より
・戸の隙におでんの湯気の曲り消え
・振り向かず返事もせずにおでん食ふ
・志(こころざし)俳諧にありおでん食ふ
最後の句は、84歳の最晩年に詠まれました。客観写生・花鳥諷詠を貫いた虚子が、おでんというカジュアルなモチーフに思いを込めた風合いに、余韻が残ります。
たくさんの鍋もの俳句からほんの一部をご紹介しましたが、いかがでしたでしょうか。ぐっと俳句を身近に感じますね。今晩は風邪などひかぬよう鍋もので身体を温めて、一句ひねる風流な一夜としましょうか。