貴方は『細雪』の何処が好き?―弥生美術館から再発見する谷崎潤一郎―
弥生美術館
弥生美術館は、どんな美術館?谷崎潤一郎の何を見せてくれるの?
弥生美術館
谷崎潤一郎は、江戸っ子?それとも『細雪』の舞台、関西育ち?
実際の恋愛経験が色濃く反映されているのが、谷崎の作品。私生活でもスキャンダラスな話題を提供し、当初は小説に毒婦や西洋風モダンガールを登場させ、作風は悪魔主義とも呼ばれました。しかし、関西の日々の中で、谷崎は次第に古典主義に向かいます。『蓼食う虫』では文楽など関西の伝統文化に惹かれていく心情、『陰翳礼讃』では闇と光という日本文化の美を述べ、続く『源氏物語』の口語訳ののち、ついに傑作『細雪』を発表します。
『細雪』は、戦前の船場の旧家・蒔岡家の四姉妹を描いた、谷崎の最大長編。三女の雪子の見合いが軸となっているものの、ストーリーは淡々と進みます。けれども当時の富裕階層の日々の生活や年中行事が細やかに、そして懐旧の念とともに、絢爛たる絵巻物風に綴られていきます。。物語の語り手・二女幸子のモデルは、谷崎の三番目の妻・松子。その姉妹たちをモデルとして描いたのが、『細雪』なのです。谷崎本人の立場となる幸子の夫・貞之助も、あれこれと妻と助け、姉妹たちの世話を焼いて活躍します。
『細雪』の楽しみ方はいろいろ
谷崎が松子や姉妹たちと暮らした神戸の住宅・倚松庵
何故か繰り返して読みたくなる『細雪』は、読む時期や年齢によって、さまざまな楽しみ方ができる文学です。壮大なる婚活風俗小説として読むことも、悠々たる上方文化の大河小説として味わうことも可能です。何度も映画化・舞台化されていますので、重ねて比較することも一興。そして作中の花見や蛍狩りなどの年中行事を真似て、展覧会のような着物スタイルでお出かけする「細雪ごっこ」は、女子なら一度は試したい。
『細雪』の優美で華やかな姉妹たちを読むことは、現代の女性にも、また殿方にとっても、めくるめく悦楽と言えるでしょう。そして姉妹たちを支える谷崎の分身?貞之助の振る舞いも、ダンディズムかくあるべし、のお手本として相応しいと思います。中央公論新社では、谷崎生誕130周年と創業130周年を記念して、たいへんお洒落な装丁の「決定版 谷崎潤一郎全集」が刊行されています。この機会に、改めて谷崎潤一郎を再発見してみてはいかがでしょうか。