散策路にもきっと見つかる!趣き深い秋の野の花六選

秋の野辺には趣きのある野の花がいっぱいです
幸せの黄色いサルビア【キバナアキギリ】

キバナアキギリ。桐を思わせる花姿から
近縁種で姉妹花のようなアキギリ(秋桐 Salvia glabrescens)はシソ科らしい紫色の花色で、この両種は分布がはっきりとすみわけされており、アキギリの分布は北陸と岐阜県東部、それに近畿地方に限られていて、それ以外の広域にキバナアキギリは分布します。
学名Salviaからわかるとおり、夏から秋にかけて公園の植栽や庭の花などとして親しまれているブラジル原産の真っ赤なサルビア(ヒゴロモソウ)の仲間になります。
茎の底部にある大きな葉は葉柄の付け根部分が両翼に張り出した鉾型で、この堂々とした葉のたたずまいと花の姿がキリの木を連想させることから「秋に咲く桐」でアキギリ、と名付けられました。
秋の野辺に涼やかに揺れる紫のベル【ツリガネニンジン】

小さなベルをたくさんぶらさげたようなツリガネニンジン
しかし何と言ってもこの植物の魅力は、晩夏から秋にかけ、輪生する細卵形の葉の台座からすっくりと直立した花茎に、薄紫色のベルのようなかわいい鐘形花を房状に咲かせる可憐な花姿です。
下向きに咲く花は1.5~2cmほど、雌しべがちょこんと出ているのがベルを鳴らす舌(ぜつ)にも見えて、一層かわいらしく見えます。
空き地に輝く秋の太陽【アキノノゲシ】

キク科の多い秋にもひときわ目立つアキノノゲシ
ハルノノゲシの頭花がタンポポのような黄色なのに対して、アキノノゲシはさわやかなレモン色、また草姿も、全体にずんぐりとしたハルノノゲシに比べてすらりとして、草丈は大人の背丈ほどにもなります。
稲作とともに南アジアから渡来した史前帰化植物とされ、明るい草原や切り開かれた空き地などに積極的に進出する強壮な生命力を持つパイオニア植物。都会などの道端にもしっかりと根を張り、美しい花を見せてくれます。
意外なことにレタスと近縁で、このため食用にもなり、龍舌菜(りゅうぜっさい)という野菜にもなっています。
朝に咲いた花が、昼過ぎにはしぼんでしまうという説明も見られますが、しっかりと夕方まで咲いている姿を目にします。秋の透明な空気にぴったりの、さわやかな菊の花です。
日本在来のフレッシュミントはすぐそばにあります!【ニホンハッカ】

ニホンハッカ。かわいい花姿、そして鮮烈なミント香に驚きます
しかし、なんとニホンハッカ(日本薄荷 Mentha canadensis var. Piperascens)はかつては全世界流通の大半を占めるミントの王様で、外貨獲得の重要な輸出品目でした。日本からブラジルに移民した日系人が、当地で安くニホンハッカを大量生産したこと、ノーベル化学賞を受賞した野依良治氏が人工メントールの合成に成功したことから国内のハッカ生産と輸出は衰退消滅し、残るのは野に咲くハッカのみとなりました。
草丈は10~30cmと小さく目立ちませんが、葉をもむと強烈なミントの香気がたちこめて、感動すること請け合いです。やや湿気のある明るい草地を好み、このため田んぼの畔にしばしば自生しているのを見ることができます。葉は緩やかな心形で対生し、段々になった葉腋ごとに薄いシャーベットピンクの花房を、輪のように咲かせます。
薄暗い樹下に映える自然のネックレス【ミズヒキ】

山にも多いですが、人家近くの路傍にも多い名花ミズヒキ
その独特のしっとりとした美しさと趣きは、多くの俳句や短歌に詠まれています。
水引の こぼれて浮きぬ水たまり 村上鬼城
つゆためて 水引の紅 ふれあへる 松村蒼石
秋は咲く 水引草に吾亦紅(われもこう) 荒野のみちを人の過ぎゆく 岡麓
また立原道造の代表詩のひとつ「のちのおもひに」でもミズヒキが印象的に歌われます。
夢はいつもかへつていつた 山の麓のさびしい村に
水引草に風が立ち
草ひばりのうたひやまない
しづまりかへつた午さがりの林道を
「風」や「水」をあらわす媒介として、この特異な形状をもつ花序は、詩人たちの心をとらえて離さなかったようです。
深まる秋空を映したような名花は月の化身?【ツユクサ】

目の覚めるような青色で名の知れたツユクサ
徳富蘆花はこの草を「つゆ草を花と思ふは誤りである。花ではない。あれは色に出た露の精である。」と思い入れたっぷりに叙述していますが、それもまたおおげさではないと感じます。
花は一日花で、花弁が二弁のように思われますが三弁で、下側にある一枚の花弁は退化して目立ちません。花弁の青とのコントラストをなす黄色い雄しべは六本あり、このうちの二本が発達して伸びて、上向きの鎌形のかたちをなします。夏の初めごろから咲き始めますが、秋にも咲き継ぎ、見た目のなよやかな弱弱しさとは真逆に、匍匐した茎から次々と根を張り、繁殖域を広げる生命力に満ちた野草です。
田んぼの畔や道端など、あちこちで見ることができますが、古名は「つきくさ」で、これは青い色素を古くから染色に使ったためで、「着き草」の意で、ウツシバナ、カキバナ、アオバナなどの呼び名があり、よく染まりますが色が落ちやすい欠点もあります。
深い青に黄色い雄しべは、黄色い満月の夜のようにも見え、「月草」でもいいんじゃない?とも感じますね。『万葉集』には、
鴨萌草(つきくさ)に 衣は摺(す)らむ 朝露に 濡れて後には變(うつろ)ひぬとも (読人不知 巻七1351)
とあり、ツユクサは「うつろいやすくはかなくあてにならないもの」の譬えとして好まれました。
月自体も日々形を変えるうつろいやすさを持ち、ツユクサの持つ色落ちのしやすさからもともと「月草」だったとも考えられます。
そうしてみますと、ツユクサが月と関連が深い秋の季語になっていることも納得がいきますね。
(参考・参照)
万葉の植物 松田修 保育社
路傍の草花 松田修 現代教養文庫
植物の世界 朝日新聞社
山野草たちの歳時記 講談社