10月22日は「平安遷都の日」。「山背国」に千年の都が築かれた理由とは?
京都・平安神宮
桓武天皇、王朝生誕の地・奈良を出奔す
奈良・若草山山頂からの眺め
聖武天皇は740年からの5年間に4度の遷都を繰り返していますし、奈良時代最後の10年間は、奈良盆地を出て山背国の長岡京に遷都しています。飛鳥時代(592年頃~710年)には、飛鳥浄御原宮から藤原京へなど、5度遷都が行われています。
ただ、4世紀の古墳時代ごろに豪族の連合・集合により日本国家の基盤となる大和王権が樹立されていった時代から飛鳥・奈良時代まで、「都」はそのほとんどを奈良盆地においていました。
現代の畿内の都市機能の中枢が大阪(かつての難波)であるのに対し、奈良は今の感覚ではどちらかというと内陸で、ローカルな位置にあるイメージですが、かつての難波一帯は低湿地で、海は今より内陸まで食い込み、むしろ奈良盆地は都として交通や防衛に適した地域であったとも言われ、このため長く政治と王権の中心地でした。
桓武帝による平安京への遷都(大きな意味ではその前の長岡京を含めて)は、大和王権がその成立以来慣れ親しんだ奈良というホームと決別した、画期的で革命的な決断であったといえます。なぜ桓武帝は大和の国から、大和から見て山の後ろにある国=山背国(遷都のあと、山背国は山城国に改められました)と、ある意味軽視されていた地方へと移転したのでしょうか。現在でもさまざまな説が唱えられていますが、その大きな側面として、桓武天皇の出自が関わっていました。
天智系と天武系の相克から平安京へ…まるで何かに導かれるごとく
奈良・平城京跡
そして672年、天智天皇の崩御後、後継皇位をめぐり古代史最大の内乱「壬申の乱」が勃発します。天智帝の弟(諸説あり、異父兄とも、兄弟ではないともいわれる)の大海人皇子(後の天武天皇)と、天智天皇の第一皇子の大友皇子、叔父と甥との骨肉の争いは大海人皇子の勝利におわり、大友皇子は自害します。
すると大海人皇子は、近江宮を即座に飛鳥浄御原宮へと遷都してしまいます。都はわずかの間に奈良盆地へと再び戻ったのでした。この後、奈良時代の末期になるまで、都は奈良盆地に、そして皇位は天武帝の系譜で受け継がれ、天智系の血筋は権力の中枢から排除されることになったのでした。しかし、天武系の聖武天皇の後継に男子が育たず、娘である阿倍内親王が孝謙天皇として即位すると、逆臣の怪僧として夙に名を知られる弓削道鏡が政治権力の中枢に食い込み、一端退位して称徳天皇として重祚(ちょうそ・再度の即位)した後は、道鏡への寵愛と依存関係はより強くなり、道鏡は皇位をもうかがうようになったと伝わります。
宇佐神宮偽神託事件などを通じて道鏡が失脚し、称徳天皇も崩御すると、跡継ぎのなかった称徳帝の後の皇位をめぐり、排除されてきた天智系皇族にチャンスがめぐってきました。天智天皇の孫にあたる白壁皇子が光仁天皇に、その息子の山部王が後をついで桓武天皇となります。曽祖父・天智天皇の意思を継ぐように、桓武帝は天武帝の支配地である奈良盆地を後にし、山背国へと出立したのです。
京都・広隆寺の紅葉
都の建造から土地整備、財務までも担ったのが秦氏。秦氏の菩提寺である蜂岡寺(現在の広隆寺)、太秦がある京都へと、桓武帝はエスコートされていったのでした。秦氏はこの後、大蔵官僚として平安王朝によりそうこととなります。
考えてみれば、道鏡失脚のきっかけとなった偽神託事件も、秦氏の古い本拠で、八幡神社の総本社宇佐神宮が震源です。天武系皇統はまるで秦氏によって仕組まれたように自滅し、取って代わった天智系の桓武天皇は、そうするしかないかのように山背国という秦氏の懐に飛び込んでいった、かのように見えます。
古代ファンタジーの雄・秦氏。でもその実績はすごかった
山伏の装束
実際ユダヤ人が世界各地に少数民族として移住し、卓越した技能やアイデア、蓄財に長けて成功しているのはよく知られていて、日本に土木や養蚕、機織、酒造、寺院建築などのさまざまな先進技術を伝えた秦氏は、そうしたユダヤ人像と重なるものがあります。山岳修験者、いわゆる山伏の独特の装束も、秦氏のもたらしたイスラエル神官の装束から来ている、といわれることもあります。イエス・キリストと同じ誕生譚を持つ聖徳太子の側近でありブレーン、そして広隆寺を創建した秦河勝もまた秦氏であり、ユダヤ系との関係を匂わせるものが多いのは確かです。
もちろん想像の域を出ない一つの説でしかありませんが、全国で数がもっとも多い八幡神社は、もともと豊後を本拠としていた秦氏の氏神ですし、二番目に多い稲荷神社の総本社である伏見稲荷も、秦公伊侶具(はたのきみいろぐ)の伝説による秦氏起源の縁起を持ちます。
秦氏が日本文化の古層に恐るべき影響力・浸透力を持っていることは確かで、その本拠地で磐石の地盤を得たからこそ、京都は千年の都として存続したのかもしれませんね。