黄葉見物に銀杏拾い・・秋は謎の古代樹・イチョウを満喫しよう
針葉樹? 意外性のかたまりイチョウ
原産地は中国。日本にも中国から輸入されました。中国でも、一部の山奥にかろうじて自生していたのみで10世紀ごろまではほとんど知られておらず、「欧陽文忠公集」の中で欧陽 脩(おうよう しゅう)が「銀杏」「鴨脚子」として詩に詠みこんだのが歴史的にはほとんど最初といわれます。やがて12世紀には宣州(中国安徽省宣城)でギンナン採取のために盛んに栽培されるようになり、日本に渡ってきたのはその後のこと、鎌倉時代から室町時代頃と推測されます(そうだとすると、鎌倉初期に源実朝が大イチョウの陰にかくれた刺客に暗殺された、いわゆる「公暁のかくれイチョウ」という歴史の有名な逸話も、かなりまゆつばですよね)。なので、草花や木がふんだんに詠まれている万葉集や古今和歌集などの平安以前の古典に、イチョウはまったく出てきません。ちなみに「イチョウ」という読み方も、葉の形が鴨の足に似ていることから鴨脚と呼ばれ、その中国語の宋音yājiǎo (イアチァオ、イーチャオ)から転じたといわれています。
イチョウの属するイチョウ網イチョウ目は、現存するのはイチョウ一種。あとは化石として残っているのみ。約一億五千万年ほど前のジュラ紀にイチョウの仲間は大繁栄していましたが、気候の変動や被子植物の台頭などで徐々に衰退、約170万年前に現存の一種を残して絶滅してしまいました。化石に残るイチョウの葉は細い針状で、のちにその針状の葉同士がくっつきあって、扇子のような現在の「イチョウ型」の葉になりました。
そう、イチョウは、実はあんな葉の形でありながら意外なことに針葉樹。つまり裸子植物なのです。
ギンナンは泳いで結実する
受粉から結実までの過程もやっぱりイチョウは奇想天外。春、雄の木から花粉が飛んで雌の木の雌花に届き受粉しますが、受粉した花粉は雌花の胚珠の中にある花粉室に数ヶ月保存され、その間に花粉は精子を製造するのです。そして秋に、花粉室から放流されて、泳いで造卵器に入り、受精して実を作ります。イチョウの精子はつい100年ほど前、1896年(明治29年)、平瀬作五郎によりはじめて発見されました。
ちなみに雌木と雄木の判別は、いろいろと俗説はあるのですが実際には花を見なければ見分けられません。筆者も毎日のように近所のイチョウを観察して雌雄を見分けるポイントを探しているのですがさっぱりわかりません。もし雌雄の見分け方を見つけたら、世紀の大発見になるかも。ギンナンがなっているこの時期、ぜひ観察してみては。
血圧降下や不整脈改善・そして痴呆症治療薬として・・・摩訶不思議なイチョウパワー
植物に限らず種の多様性を守るということは、結果として人間のためになるのだということを教えてくれているように思います。
年中ギンナンは食べられますが、黄緑色の鮮やかなギンナンが食べられるのもこの時期だけで風味も格別。全国でもっとも数が多い街路樹はイチョウで、全国でおよそ157万本、これは全街路樹の1/10にあたるそう。熊本城や昭和記念公園など名所にいくもよし、近所の街路樹をながめたりギンナン拾ってみるもよし。ただギンナン拾いの時には手袋をお忘れなく。イチョウのサル除けの対策で手がかぶれてしまうかもしれませんから。