作品名はズバリ『秋』。芥川龍之介の掌編を愉しむ秋の夜長
日本を代表する文豪・芥川龍之介
明治35(1892)年に生まれた芥川龍之介は、『羅生門』『鼻』『地獄変』等の数多くの作品を著し、彼の作品は大ベストラーとなり、今も多くの人に読み継がれています。
そんな芥川龍之介も妻・文との間に3人の男児をもうけた後、昭和2(1927)年7月24日未明、致死量の睡眠薬を飲み、わずか35歳で自らその生涯を閉じます。
傑作短編群の一角をなす掌編
この作品が発表されたのは大正9(1920)年。
芥川の人生と照らし合わせてみると、作品が発表された前々年の1918年、26歳の芥川は知人の紹介で若き塚本文(跡見女学校在学)と結婚。芥川にとって所帯を持ったことが大きな節目となったのか、時期を同じくして私小説的な作品を発表するようになります。
手軽に読める掌編で、高雅な文章を堪能しよう
まさしく今が読み頃の掌編『秋』。
ネタバレになるので、気になるストーリーをさわりだけご紹介すると……。
〈従兄で作家志望の「俊吉」と結婚するはずだった才媛の「信子」は別の青年と結婚し、妹の「照子」と「俊吉」が結婚する。幼なじみの従兄(俊吉)をめぐる、姉(信子)と妹(照子)の三角関係を軸に、三者三様の心の葛藤が描かれる〉。
芥川が新境地を開拓したと評価される現代小説『秋』には、恋焦がれる男性を妹に譲った姉の視点を基軸に、内に秘めたる微妙な心理が高雅な趣で表現されています。
作家・三島由紀夫による書評
〈---------この短篇には芥川らしい奇巧や機智はなく、おちついた灰色のモノトオンな調子を出してゐて、しかも大正期の散文らしい有閑的な文章の味はひがあつて、飽きの来ない作品である。かういふ方向を掘り下げ、拡げてゆけば、芥川にとつて最適の広い野がひらけたと思はれるのに、時代が熟してゐなかつたせゐもあるが、この作品が一個の試作に終つたのは惜しい。ここには近代心理小説の見取図がもう出来上つてゐて、あとは作者のエネルギーの持続を待つだけだつたのである--------〉(wikipediaより)
『秋』が書かれた背景を読み解く
掌編『秋』の行間から立ちのぼる、
葛藤、煩悶、初恋の相手への焦がれる思い、所帯をもった責任感、そして厭世感……。
うろたえ、悩み、さまよい続ける文豪の心に思いを馳せながら、ゆったり秋の夜長を過ごしてみませんか。