南海トラフ巨大地震が発生した際の被害想定を政府が見直し、最大で約29万8000人が死亡すると公表しました。
前回の想定から1割減にとどまりますが、津波での早期避難意識の向上で大幅に減らせるとしています。
「南海トラフ」は静岡県の駿河湾から九州の日向灘にかけて、日本列島の陸側プレートに海側のプレートが沈み込む海底の溝のような地形で、このプレート境界を震源とする大規模な地震が「南海トラフ巨大地震」です。
南海トラフ沿いでは、100年から150年ほどの間隔で、マグニチュード8クラスの巨大地震が繰り返し発生しており、政府は今後30年以内にマグニチュード8から9クラスの巨大地震が発生する確率を「80%程度」としていて切迫性の高い状態です。
また、南海トラフ地震は被害が多くの地域に及ぶのが特徴で、マグニチュード9クラスの地震が発生すると、震度6弱以上または3メートル以上の津波が襲い市町村は31都府県764市町村に及び日本の全人口のおよそ半分に影響がでます。
政府は2012年に被害想定を公表し防災対応を考えてきましたが、10年以上が経過したことから、2023年から新たな知見に基づく有識者による対策を検討してきました。
今回公表された新たな被害想定では在宅率の高い冬の深夜に南海トラフ巨大地震が発生した場合、静岡県から宮崎県にかけての一部地域で震度7の激しい揺れが起き、東海地方など太平洋沿岸の広い地域に10メートルを超える大津波が襲い最大でおよそ29万8000人が死亡するとしています。
これは、強い揺れを感じたらすぐに避難する人の割合が20%と低い場合を想定しており、早期に避難する意識が70%に増えると死者は17万7000人となり、10万人以上減らせるとしています。2012年に公表された被害想定では最大でおよそ32万3000人が死亡するとされていました。
政府は大幅な減少を目指していましたが1割減に留まりました。
防潮堤の整備や住宅の耐震化、津波タワーの建設など対策が進んだ一方、1割程度しか減らなかった要因として、最新の地盤データや地形データの更新を行った結果、茨城から鹿児島の広い範囲で津波による30センチ以上の浸水地域が前回の想定の873平方キロメートルから1151平方キロメートルへ全国で3割以上増えたためとしています。
また愛媛県や徳島県では人口が多い地域での浸水地域が広がり、死者が前回に比べ、それぞれ約1万人増える想定です。
浸水での被害は都市機能のマヒも懸念されていて、30センチ以上の浸水は愛知県で最大約60平方キロメートル、大阪府でも約27平方キロメートルの想定されていて、港湾機能の低下を含め、経済活動が困難になるとしています。
また、南海トラフ巨大地震により10メートル以上の大津波が想定されている地域は13都県におよび最大は高知県の土佐清水市と黒潮町で34メートル、静岡県下田市で31メートル、和歌山県すさみ町で20メートルとなっています。
高知県、静岡県と和歌山県では5メートル以上の津波が地震発生後に最短3分から4分で到着するとしています。
地震により堤防や水門が壊れるなど機能不全になった場合は全国の死者数がさらに最大で1万4000人増えるとしていますが、地震発生後10分以内に全員が避難を開始した場合は津波の死者は21万5000人から7万3000人となり7割減らせるとしています。
家屋の被害が最も大きいとされるのは暖房器具や火気の使用が多い冬の夕方に地震が発生し、四国沖から九州沖にかけて大きな津波が起きた場合で、地震による全壊が127万9000棟、液状化によるものが11万棟、津波によるものが18万8000棟で、火災が発生して最大76万7000棟が焼失するなど合わせて235万棟の家屋が被害を受けるとしています。
前回の想定からおよそ3万棟減少したのは、揺れを感知してブレーカーを自動で切り火災を防ぐ感電ブレーカーの普及により焼失が減ったためということです。
しかし、感電ブレーカーの普及率はまだ約8.5%にとどまっていて、100%普及すると木造家屋密集地域を中心に、火災の焼失を76万7000棟から35万8000棟に被害を半分以上減らせるとしています。
ライフラインの影響も深刻で、発災直後による断水で最大で3590万人が影響を受け、停電は2950万軒で発生するため、政府はインフラやライフラインの耐震化や強靱化だけではなく、早期復旧のための事前準備を推進していくとしてます。
多くの人が家を失ったり、水や電気を使用できなくなることから地震発生から1週間で、避難所や親戚の家などに避難する人は前回の想定の950万人から全人口の1割にあたる1230万人に増加しました。
今回の想定で食料は3日間で約1990万食が不足すると試算されています。
自治体などで食料は備蓄が進んだ結果、前回の想定の3200万食不足から大きく減ったことになりますが、支援物資はすぐに届かない可能性もあるため、自治体だけでなく自宅で食料や水などを備蓄することが重要です。
避難者数などの増加に伴い、能登半島地震でも被害を拡大した地震後に心身に負荷がかかり犠牲になる「災害関連死」も初めて想定され、南海トラフ地震では2万6000人から5万2000人が死亡するとしています。
政府は災害関連死を減らすためにも支援を避難所などの場所ではなく車中泊なども含め避難者自体への支援に考え方を切り替え被災者の生活環境確保を支援していくとしています。
しかし、過去に類を見ない被害が生じるおそれがあり特に山間部や半島、離島などは外部からの応援が困難になる可能性もあり、災害関連死は試算よりさらに増えるおそれがあります。
また、経済的な被害は建物の復旧費用や企業の生産低下による影響で東日本大震災の10倍以上となる270兆3000億円にのぼるとされ2013年に試算された214兆2000億円を大きく上回っています。
これは、建築資材など物価の高騰の影響が大きいとしています。
南海トラフ地震は江戸時代の1854年に南海トラフの東側が震源となった「安政東海地震」が発生しその30時間後に西側が震源となった「安政南海地震」が起きました。
1944年には紀伊半島沖を震源とする「昭和東南海地震」が発生しその2年後の1946年に四国沖を震源とする「昭和南海地震」が発生しています。
1回目の地震のあとにまだずれ動いていない領域でマグニチュード8クラスの巨大地震が相次ぐことも特徴です。
政府は今回、初めて時間差でマグニチュード8クラスの地震が襲った場合、いわゆる「半割れケース」による被害想定も公表しました。
西側で先に地震が発生した場合の津波による死者はおよそ6万6000人にのぼり、その後数日の間に東側で同クラスの地震が襲った場合、さらに7900人が犠牲になり合計でおよそ7万4000人が死亡するとしています。
また、先に東側で地震が発生した場合は津波による死者は2万9000人、その後西側で同クラスの地震が襲った場合さらに1万3000人が死亡し、合計で4万2000人が死亡するとしています。
これは後に発生する地震で、事前に避難しない場合を想定しており、南海トラフ臨時情報などを活用し事前避難を徹底すれば、西側が後発地震の場合死者は700人と大幅に減らせるとしています。
一方で時間差地震による家屋の倒壊は先に発生する地震のダメージが蓄積した状態で2回目の地震が発生すると単独での地震に比べ3万棟ほど全壊棟数が増えるとしています。
しかし、1回目の地震の後に耐震化を進めることで2回目の地震による被害を大幅に減らすことができるとしています。
政府は「前回の被害想定公表から10年間で避難意識や耐震化など国民や産業界が自ら進んで行う防災対策は不十分だったと思う。これからの日本を守るためにも、南海トラフ地震が来ることを前提に取り組みを始めて欲しい。被害は甚大かつ広域に及ぶことから、行政主体による対策では限界があるため被害を減らすのは国民1人1人、自らの命は自ら守る意識が重要」と呼びかけました。
地震による「揺れ」や「津波」「火災」のいずれについても、個人が取り組める対策によって被害が大幅に減らせます。
日頃からの防災対策に加えて、大きな揺れを感じたら、一刻も早く避難することを心がけることが重要となります。