≪花の歳時記≫古くは「常夏(とこなつ)」と呼ばれた可憐な花「なでしこ」
撫でいつくしむかわいい子「撫子(なでしこ)」。はにかみながらほほえむように咲く花
花の季節は6月から9月とされ、草丈はだいたい30~80cm。花の直径は4~5cm。ほっそりした茎の先に、はにかみながらほほえむように咲いています。正式名は「かわらなでしこ」です。
万葉の歌人、大伴家持はこの花がことさら好きだったようで、万葉集中26首ほどある、なでしこを詠んだ歌のうち12首が家持の作だそう。
~なでしこが花見るごとに娘子(をとめ)らが
笑まひのにほひ思ほゆるかも~
単身赴任中に詠んだというこの歌は、なでしこの花を見るたび、妻の笑顔を思い出すというロマンチックな一首。
こんな歌を詠まれるなんて、家持の奥さんはさぞかし優美で素敵な女性だったんでしょうね。
漢字では「撫子」と書く「なでしこ」。その意味合いは「撫でし子」で、撫でいつくしむかわいい子のように、この可憐な花は古くから人々に愛されていたのでしょう。
常夏(とこなつ)……古名の由来は春から秋まで長く咲くことから
「常夏(とこなつ)」とは、一年中夏のような気候であることを表す言葉。なぜその名で呼ばれたというと、夏から秋まで長く咲いていたことからだと言われています。平安時代ごろに中国から渡来した「からなでしこ(唐撫子)」もまた、四季咲きの性格を持つことからともに「常夏」と呼ばれました。
『源氏物語』にも26帖「常夏」があり、庭に日本のなでしこと中国のからなでしこ、2つの国の「常夏」が彩りよく植えられていた様子が綴られああています。
「からなでしこ」が渡来してきたことで、「やまとなでしこ」とも呼ばれるように
こちらは、「石竹(せきちく)」とも呼ばれる、からなでしこ
枕草子にも「草の花は撫子、唐のはさらなり、大和のもいとめでたし」と記され、宮中では両方の美を愛でていたよう。
唐のなでしこは、「石竹」とも呼ばれ、日本のものより花弁がやや丸っこく、色も華やかで、どちらかと言えば可愛らしさが際立つタイプでしょうか。
かたや「大和撫子」は、控えめで清楚な佇まい。いかにも日本的な風情を漂わせています。
日本女性の清らかな美しさ、奥ゆかしさ、そして芯の強さを象徴する花
品の良さがあり、おしとやかな中にも芯がある女性の姿を思い浮かべる方も多いかもしれません。
女子サッカー日本代表のチームの愛称も「なでしこジャパン」。(同じナデシコ科でも、背丈も花弁の多さも、より華やかなカーネーションが外国人選手だとすれば……)、凛と己を律しながら、粘り強く世界に挑戦し続ける彼女たちの姿に、たおやかに野山に咲く花の姿が重なります。
やまとなでしこ……。辞書を引けば、日本女性の清らかさ、美しさをたたえて言う言葉とあります。けれどもこの名の奥には、外見だけに止まらない心の美を求める、女性のしなやかな生き方が表されているような気がしてなりません。
楚々と咲く和の国の花に倣って、暑い日々の中でも相対する人に思いやりと涼をもたらすように、爽やかにほほえんでみましょうか。
※参考文献
万葉植物事典(北隆館)
花言葉【花図鑑】(大泉書店)
現代こよみ読み解き事典(柏書房)