七十二候《腐草為蛍(くされたるくさほたるとなる)》……蛍が幻想的な光を放つころ
薄闇に灯り、舞い踊る蛍火は、ロマンチックな愛のささやき。6月は蛍たちの結婚シーズンです
静けさに満ちた闇のなか中、ゆらゆらと美しく光を瞬かせる昆虫、蛍。そもそもいったいなぜ、蛍は発光するのでしょうか?
――それは、オスとメスとが互いに光の信号で、自分の居場所を知らせあっているからだと言われています。
羽化後約2週間ほどという成虫の期間中に子孫を残さなければならないので、とにかく結婚を急いでいる蛍たち。
暗闇の中「結婚してくれる女の子はいないかな~」と、オスがメスを求めて飛び回りながら放つ光のラブコールに、草や木の葉の上にいるメスが「ここにいるわよ~」と、光で合図し応えているのです。
結婚を終えたらつづいて産卵。飛翔する成虫の期間は短いからこそ命を燃やして
一方、まだ結婚(交尾)をしていないメスは、婚期を逃したたくない焦りもあるためか、アピールするように強く発光。オスはそんなメスを見つけたらそばに着地し、光を点滅させながらゆっくりと近づき、めでたくゴールイン(交尾)するのです。結婚後のラブラブ時間も意外に長く、15時間ほど接したままというのもなんだか情熱的な蛍たちなのですが、役目を完了したオスはその直後に死んでしまいます。
それからおよそ4~5日経つと、メスは産卵のときを迎えます。「どこがいいかしら、いいコケのベビーベッドはあるかしら」と、川面すれすれに飛びまわり探し回る身重なメスたち。もしも深夜遅く、直線で飛ぶ蛍の点滅をみかけたら、それは、卵からかえった幼虫たちが、水の中へすぐ行けるグッドロケーションを探すママたちの姿。やがて適した場所が見つかると、「ここならいいわね」と満足したかのように発光しながら卵を産むそうです。その数は500~1000個と言われ、ゆっくり2、3日かけて産卵したあと、メスもまたその天命をまっとうするのです。
さてその後、卵から孵った蛍の幼虫は、水中へ。カワニナという巻き貝を食べ脱皮を繰り返し、水からあがるとサナギとなり羽化(卵も幼虫もサナギも光るそうです)。この間約1年もの時を経て、光り舞う季節を迎えます。
全国各地で「蛍祭り」も続々。せっかくなら自然発生の蛍を鑑賞しにでかけませんか?
源氏物語の「蛍」の巻では、光源氏が放った蛍火で、闇と几張に隠された玉鬘の君の美しい顔を浮かび上がらせたり。蛍の灯りで勉強したという中国の故事が「蛍の光」の歌詞に残っているように…。
ほー、ほー、ほーたる来い。こっちの水は甘いぞ~♪
そんな懐かしい歌をくちずさみながら、水が甘いほどに清らかで、蛍が自然発生している場所を求めて出掛けるのもいいですね。全国各地では7月にかけ蛍まつりも開催中。気温が20度以上で、曇っていて、風のない夜(ピークは20時台)に多く飛ぶといいますからお天気をチェックしてお出かけください。鑑賞の際は、車のヘッドライトや懐中電灯、カメラのフラッシュなどで蛍たちをびっくりさせないようにお気をつけて。
刹那の命をきらめかせ、光瞬き合うことでパートナーに巡り逢う蛍たち。その神秘的な光の情景を目にすることで、命の大切さ、命を育む自然のありがたさが、心にじんわりと余韻を刻むことでしょう。思えば人の一生も宇宙から見れば蛍となんら変わらずはかないもの。だからこそ、瞬間瞬間に光をともして生きていけたら……。しんみりと、そんな思いにもかられる《腐草為蛍/くされたるくさほたるとなる》のころです。
※参考&引用
「ホタルの光は、なぞだらけ」(大場裕一著/くもん出版)
ホタル百科事典
http://www.tokyo-hotaru.com/jiten/hotaru.html