七十二候<寒蝉鳴(ひぐらしなく)>。セミのうたを聴き分けてみませんか?
晩夏の挽歌
お腹から声出してます。スピーカー機能内臓!
樹の汁が大好き。丈夫なストローで吸います
鳴くのは、オスだけ。背中の内側には左右に膜(発音膜)があり、貝柱のような強い筋肉(発音筋)につながっています。発音筋がちぢむと、発音膜が引っぱられて、音が出ます。発音膜は1秒間に約100回も伸びちぢみし、そのたびに音が出るのです。薄い金属板を凹ませるとペコン、と鳴るのと同じ仕組みなので、ためしに死んだセミの発音膜をピンセットでつまんで引っぱってみても、ちゃんと音が出るのだそうです。逆に、元気なセミでも、両側の発音膜に虫ピンでちょっと穴を空けると、とたんに歌えなくなってしまいます。
オスのセミを仰向けにすると、後ろ肢の付け根(胸の下方)あたりに、うろこのような固い板が2枚。めくってみると、その下にはぽっかりと大きな穴が! セミはなんと、この空っぽのお腹に音を反響させて大きくしていたのです。昆虫学者ファーブル先生の実験によると、空っぽになっている部分をハサミで切り落として指でふさいでみると、元気なセミはそれでもよく鳴きますが、低く、太い声になるのだとか…。また、その穴に紙の筒をラッパのようにしてあててみると、声はより大きく、より低くなるのだそうです。さらに、その紙の筒をガラス管に突っ込んでみたところ、まるで牛か怪物のうなり声に!? セミの「虫ばなれ」した大声は、お腹の拡声器によるものだったのですね。
夏の終わりに鳴く「寒蝉」は、ヒグラシではない?
つくづく惜〜しい、夏休み!
耳鳴りの一種に「セミの鳴き声が聞こえて夜眠れない」という症状がありますが、実際に夜鳴きするセミも増えているのだそうです。セミがもっともよく鳴くのは25℃前後。近年は熱帯夜が多いことや、夜も街灯で明るいことなどが夜鳴きの一因と考えられています。じつは、セミには夜寝る習性はなく、ただおとなしくしているだけなんだそうです。また、飛べない雨の日も鳴きません。たいていのセミは、お日さまが好きなのですね。
そんななか、ヒグラシは朝早くまだ暗いうちか、夕暮れに鳴きます。日中でも、雨が降りそうに暗くなり、気温が下がると「カナカナカナ」と涼しい声で鳴きはじめるのです。まるで夏の中の秋を感じとって鳴いているみたいに。そういえば、ちょっと秋の虫が翅から出す音を思わせる、澄んだ響き…セミの声で暑さが癒されるなんて。「鳴き声に秋風を思い出す」不思議なセミを、昔の人は「寒蝉」と呼んだのかもしれませんね。
自分の耳は平気なの!? 蝉爆弾を回避する方法は…
クマゼミ。肩のあたりがクマっぽいですね
詳しいことはわかりませんが、メスはやはり、どんな喧騒のなかでもちゃんと歌を聞き分けて、魅力的なオスを選んでいるようです。聞き取る音の範囲が人間とは違うのかもしれません。または、「耳が遠いはずなのに、悪口を言うとなぜか全部聞こえている」ように、生きものの耳は、瞬時に聞くべき音だけを選んで脳に伝えているということでしょうか。
夏の終わりには、落ちてひっくり返っているセミをよく見かけます。「蝉爆弾」とは、死んでいると思って近づいたとたん、いきなり大暴れするセミのこと。大声で鳴きながら顔にぶつかられ、心の傷になっている方もいらっしゃることでしょう。遠くから手をパンパン叩いても反応しないかもしれません。そんなときは、肢(あし)に注目です。きゅっと閉じていたら、たぶんそれはセミの亡骸。でも、ぱぁ〜と開いていたら要注意! 水鉄砲(←セミは濡れるのが苦手なので有効という噂も)などを所持していない場合は、速やかにその道を迂回してください!(住んでいる建物の入口付近にいたら、うちに帰れませんが!)…とはいえ。セミとしては「もう枝につかまるのも平らな床で寝返りを打つのも、しんどいんだけど最後の気力をふりしぼって飛ぶっ!!」という状況なので…コントロールがきかないのは、大目に見てあげたいですね。
ミンミンゼミ。セミはハート形になって交尾しますよ♡
<参考文献>
『ファーブル昆虫記3』奥本大三郎/訳・解説(集英社)
『鳴く虫の科学』高嶋清明、海野和男(誠文堂新光社)