七十二候<楓蔦黄〜もみじつたきばむ〜>紅葉狩りとは 錦をまとった美女を狩ること!?
別名『色見草(いろみぐさ)』。色づき具合が秋の深まりを知る目安に
赤い葉、黄色い葉。じつはしくみが違うんです
もともと黄色になる種類のもみじもあるそうですよ
葉に含まれる色素には、緑色の「クロロフィル」と黄色の「カロテノイド」があります。春夏は緑色が圧倒的に優勢なのですが、秋になると働きが弱くなり、分解されてしまいます。それで、今まで目立たなかった黄色がジャーン!とお目見えするのですね。
さらに冷え込むと、木はせっせと冬支度を始めます。まわりからの栄養補給がしにくくなる季節を前に、葉っぱを落として養分をとられないようにしておくという企て・・・葉の付け根にコルク質の「離層」という組織をつくり、防火扉のように物質の行き来をシャットアウトしてしまうのです。
ということは逆に、葉の中の物質も移動できずに留まることに。紅葉する葉では、光合成で生産された糖がたまって赤い色素「アントシアニン」ができるため、葉が赤くなるのです。
紅葉は、最低気温が5℃くらいになるとぐっと進むといわれています。けれど気温が低すぎても紅葉する前に枯れてしまうなど、冷え込めばよいというわけではないようです。鮮やかな赤色になるには、昼と夜の気温差が大きくて、葉が充分に日光を浴びることが大切なのだとか。1本のもみじに、黄〜オレンジ〜赤とグラデーションができるのは、そんな理由からだったのですね。やがて葉は、離層のところで切り離されて散り落ちてゆきます。
狩られてしまった紅葉(もみじ)さんのこと
秋は熟年の美しさ・・・
観世小次郎信光によって室町時代に作られ、スペクタクルな展開が現代でも人気の演目なのです。歌舞伎はじめさまざまな芸能や地方伝説のもとになったともいわれています。その内容は、平安時代に実在した武将・平維茂(たいらのこれもち)の鬼退治。あらすじは・・・
紅葉が美しい山中(信濃国の戸隠)で、高貴な風情の美女数人が紅く染まる葉を愛でています。幕を巡らし楽しげに宴会しているところに、鹿狩りにやってきた平維茂の一行が通りかかりました。声をかけても素性も明かさないため通り過ぎようとすると、意外にも「どうかぜひご一緒に」との強力なお誘いが。
無下に断ることもできず宴に参加した維茂さん。注がれるお酒と、この世のものとは思えないほど美しく妖艶な舞に思わず酔いしれて前後不覚に・・・すると、舞は急に激しくなり、なんと美女から鬼の本性が!それなのに維茂さんたらぐーぐー眠りこけたまま! 鬼女たちは姿をくらましてしまいます。
夜になり、八幡宮の神が維茂さんの夢に現れて「美女に化けた鬼を討ち果たすべし」と告げ、八幡大菩薩からの神剣を授けます。目が覚めた維茂さんは、現れた鬼と対決。大格闘の末、ついに切り伏せ退治しました。
長野県にはいくつもの地でこのような話が伝わり、『紅葉伝説』と呼ばれています。その鬼女の名は、紅葉(もみじ)。
「狩る」という言葉には「罪人などを捜索し捕らえる」という意味もあります。平安時代の貴族は紅葉の枝を折りとって手にして愛でた、ともいわれていますが、もみじさんは実際に狩られてしまったのですね・・・ところで、名前まで伝わるもみじさん。いったいどんな鬼女だったのか、ちょっと気になりませんか。
鬼女ではなく貴女? その名をゆるされているならば
切り離されて、足もとを飾ります
地元の人に読み書きや手芸など京の文化を伝えたり、妖術で病気を治したりもしていたもみじさん。とはいえ、京の暮らしがやっぱり忘れられず、心に鬼が芽生え、とうとうその軍資金を得るために手下を集め、周囲の村を襲うようになったといいます。その噂が京に届き、命を受けた平維茂さんが退治にやってきた、というのが大筋の経緯とされています。
もみじさんの人物像には地域によって諸説ありますが、美しい女性だったことは間違いなさそうです。源家に見出される前にも、長者の息子に熱烈に求婚されて妖術で自分のダミーを作って逃げた(しかもだまし取ったお金で京に上った)など、美貌ならではのエピソードが残っています。
長野県 鬼無里(きなさ)の伝説では、もみじさんは「鬼女」ではなく、嫉妬する正妻の陰謀によって流刑にされ、その地で人々に敬愛されながらも追っ手に殺されてしまった悲劇の「貴女」。しかもその地は、鬼がいなくなったから『鬼無里』という名になった、というのです。
一説には、もみじさんは朝廷に反発する夫がいて反乱討伐軍に狙われたともいわれています。立場によって善悪の判定は真逆にもなりそうですが、「鬼女もみじ」の伝説には、どこか愛情の匂いが感じられるのです。なぜなら、人は何らかの情をもたなければ名前を付けて語り継いだりしないものだから・・・ましてや、この国でもっとも美しい紅い葉の名前など。
紅葉は女性を美しくし、二人の距離を縮めます
気持ちも高揚しちゃいますね♪
その美しさを得て愛でることこそが、紅葉狩り。日本の秋を狩りに、今年はどこにでかけましょうか。