ひんやり可愛いカイコが起きて桑をはむ! 蚕起食桑(かいこおきてくわをはむ)。
はむはむはむ。いちど手に乗せたら、もうトリコ♪
皇后さまの手でお世話されます!
桑の実は甘くて美味しい人間のおやつ
ご存じの方も多いと思いますが、野性のカイコは生息しません。カイコという昆虫は、マユを作る蛾が長年にわたり人類によって改良された、完全な家畜なのです。
もともとはサナギを食するための虫だったらしいとはいえ、すでに4500年前の中国では絹糸目的で飼育されていたようです。その糸はやがてシルクロードを渡り、世界の宝とされました。日本でも『日本書紀』には宮中で養蚕がもう行われていたことが記されています。
現在も皇居敷地内に『紅葉山御養蚕所』があり、毎年春になると皇后陛下がカイコのお世話を開始します。4回の脱皮を経て劇的に成長しマユを作るカイコ。今の時季は食べ盛りのカイコに桑の葉を与える「ご給桑(きゅうそう)」などがニュースになり、6月には種を次代に遺すため卵を保管する「種採り」も行われます。
皇居で育てられているカイコのうち、希少な日本産種の『小石丸』はマユが少々小ぶりで古代の絹にもっとも近く、そのおかげで正倉院の絹織物が復元模造できたのだそうです。皇后陛下の絹製品は、外国の賓客へのスペシャルな贈り物にも!
カイコは 想像以上に やんごとなき虫のようです。
自力で生きるつもり全くナシ!
ボール紙のマスでお手伝い
カイコはどんなに空腹でもエサをさがしません。運ばれてくる食事をひたすら待つ心構えです。大好物の桑の葉も、30㎝以上離れていたら食べないまま飢え死にするくらいなのです。またマユも、人がマスなどを設置してあげないと上手に形を作れないようです。交尾する場所や相手も人がセッティングしてくれるから婚活不要! まさに「縦のモノを横にもしない」生活ぶりです。
そんなわけで、仮にカイコを野性に帰そうと桑の木に乗せてみたとしても、警戒心もなくエサもとれないので、婚活どころか一両日中に飢え死にまたは補食(真っ白ですごく目立ちますし)されてしまうといわれています。そもそも足が弱くて枝につかまっていられません。
昆虫でありながら、カイコの辞書には「自活」「生き残り」「ハングリー精神」などは収録されていないようです。
「でもそこがたまらなく可愛い」・・・カイコ飼育者たちは口をそろえます。
ふつうの昆虫なら(たとえこちらはかわいがっているつもりでも)警戒したり威嚇してくるのに、カイコは人が近づき触れても、逃げも隠れも攻撃もしてきません。それどころか、おっとりと「寄ってくる」気配さえ見せます。触れるとひんやり、スベスベのお肌。
与えたごはん(桑の葉)をはむはむと、それは美味しそうに音をたて無心に食べてくれる嬉しさ可愛さよ! たくさんのカイコがたてるサワサワという食音は、小雨のようだといいます。美智子様は、耳をカイコに近づけて聴き入るほどこの音がお好きなのだそうです。
育ちの良い人が給仕のサービスを自然体で受けるように、カイコも人のお世話をすんなり受け入れてくれるみたい? 人的には、そんな安心感も魅力なのかもしれませんね。
ペットにしたい「もふもふ蛾」?!
最後には意外な激しさも見せてくれますよ
コロコロ白くておもちゃみたいなマユは、子供に大人気。筆箱に入れたまま忘れていて、ある日開けたら蛾がわらわらと・・・という騒動を起こす子も(筆者の夫です)。
ところが最近、そのカイコ蛾に「萌える」若者が増殖中?! よく見ればたしかに、ぬいぐるみのようなもふもふ感・クシに似たスタイリッシュな触覚・黒くつぶらな目・・・と、かなりキュートなデザインですね。それに加えて、「翅はあるが全く飛べない」「ものを食べたり飲んだりする口がない」「交尾して卵を産むとすぐ死んでしまう」そんな儚さが、なんだか哀れで愛おしいというのです。つかの間のふれ合いののち、飛べない天使はお世話の思い出とともに空に帰ってしまいます。
カイコは近所の施設などで分けてもらったり、通販でも入手できます。
虫は苦手という方も、試しにいちど手に乗せてみては。ひんやりスベスベの癒しを感じてみてくださいね。
なんと1本の糸でできています!
「科学のアルバム かいこ まゆからまゆまで」岸田功(あかね書房)
「皇后さまの御親蚕」『皇室』編集部・編(扶桑社)