『プラド美術館展』 。閉幕直前! ところで巨匠の絵は、なぜ小さい方が高価なのでしょう?
マドリードのプラド美術館
体はひとつだから、小さいほうを描いてます!
東京・三菱一号館美術館で開催中の『プラド美術館展』には、興味深いルーベンスの2作品が展示されています。
『アポロンと大蛇ピュトン』は、フェリペ4世が狩りで滞在する郊外の城館を飾るための、連作のひとつ。飾られる大型の作品は、お弟子さんが仕上げたものです。そしてなんとその横に、ルーベンス自身の描いた下絵が展示されているのです。「大きい絵」はじゅうぶんに美しく、「小さい絵」(下絵)は粗いタッチで色褪せていますが、見比べてみると、「小さい絵」はアポロンとキューピッドの視線がぴたりと合い、動いている途中の勢いがみなぎってます。
もうひとつは、『聖人たちに囲まれた聖家族』。もともとアントワープの教会のために描かれた、大きな作品です。展示されているのは、それを小さいサイズで描いたもの。これは下絵のような粗いタッチではなく、むしろ細部にわたってかなり描き込まれています。じつはこの作品、完成後にルーベンスが もう一度描いたものだというのです。完成したものを、なぜわざわざまた? というと、画家自身の記録用と同時に、優秀なお弟子さんたちのテキストにするため・・・たとえば衣服の質感の出し方などお弟子さんたちが迷ったときに参考になるようにと、プロのワザを其処此処にちりばめてある、贅沢な作品なのです。
巨匠の「小さい絵」は、本人だけの直筆で、しかもなみなみならぬ意図や情熱が注がれたものが多いのですね。18世紀には、「完成作」はコピーでしかなく下絵の方こそ完成作!ともいわれ、巨匠の粗描きはどんどん値段が上がっていったそうです。
会場では、エル・グレコ直筆の とても小さな絵も展示されています。
恐怖の外科手術! あのボスが初来日
オランダ出身の奇想の画家ボスの『愚者の石の除去』では、屋外で外科手術中。当時は「頭の中に愚者の石ができると愚かになる」と信じられていて、実際手術もおこなわれていたのだそうです。しかも、一般人(ニセ医者)による施術という恐ろしすぎる例も珍しくなかったとか。作品の上下の銘文が、この絵の「裏の意味」を伝えています。
時代は神から人間中心の世の中になっても、人間は美しいばかりではなく、愚かなこともする。そんな視点を、ダヴィンチと同時代の画家は絵にしていたのですね。
ティツィアーノもベラスケスも印象派?!
ベラスケスの『ローマ、ヴィラ・メディチの庭園』は、メディチ家がローマに持っている邸宅で描かれました。この時代の風景画は、記憶と想像をたよりに室内で制作するのが普通で、描かれるのも宗教的または牧歌的な雰囲気の「理想的な」風景だったのです。
ところが、この絵は絵の具やキャンバスを外に持ち出して描いたと思われ、庭で作業する男性たちまで見えます。マネ、モネ、ルノアールなど日本人に大人気の「印象派」は、19世紀半ばにチューブ入り絵の具が開発されたことによって広まります。光の移ろう日常の風景をありのままに描き出そうとした「リアル」な絵を、ベラスケスは17世紀前半にもう描いていたのです。
ちなみに彼は、24歳で宮廷画家となった超エリートでした。あまりにフェリペ4世に気に入られ、生涯のほとんどを宮廷の中で過ごし、作品は門外不出! それで いつも自分の絵に囲まれて暮らすことになり、繰り返し加筆もしていたといいます。絵画の管理責任や絵の買い付けなど、王様の人使いが荒すぎて作品を多く描けず、過労死したともいわれています。もっと長生きしていたら、さらにすごい作品が残っていたかもしれませんね。
いよいよ1月31日まで! レトロな佇まいもお楽しみください
金曜日・会期最終平日は夜8時まで開館♪
それぞれの展示室を結ぶ廊下の窓からは中庭が見え、椅子が並んでいます。暖炉や階段のレトロな佇まいは、美術館デートにもぴったり。フォトスポットもありますよ。リンク先で展覧会の詳細や作品情報(他にもゴヤ、ムリーリョなど盛りだくさんです)などをチェックできます。
暖かい室内で、王様や貴族になった気分でゆったりとごらんになってはいかがでしょう。
<参考>
『名画に会う旅 プラド美術館』(世界文化社)