冬の白馬 入山前に押さえておきたい天気のポイント
悪天、荒天に関連した気象遭難は、気象の知識があれば避けられたと思われるものが少なくありません。このコラムでは気象遭難を防ぐ一助となるべく、冬の白馬エリアの天気が荒れる場合、そして比較的晴れやすい場合を紹介します。
白馬は雪山とスキーが楽しめる一大リゾート
報道が十分でなく誤解されることが多いですが、一般的にバックカントリーへの侵入自体は禁止されていません。白馬エリアではゲレンデ内で雪崩が発生することを防ぐ目的の立入禁止区域は別に設定されており、ゲレンデトップから通行できる登山道は解放されています。入山者は自らの責任で真冬の北アルプスを楽しむことができるのです。詳しくは白馬村観光局が公開している「白馬ルール」を確認しましょう。
もちろんゲートの外はリスク管理がなされていない「リアルな」北アルプスですから、危険を回避する技術と知識が必要です。気象遭難を防ぐ上では、どんなときに雪が降り、風が強まるのかを知っておくことが重要です。
長野北部の大雪4パターン 風向で雪の降りやすい場所が移動
大陸からの季節風が吹き出し始める初期段階で、どちらかといえば西寄りの風向が揃っていると、日本海で発生した雪雲が真っ先に北アルプスにぶつかるため、北アルプス周辺で降雪量が多くなります。白馬エリアを含めた北アルプスで集中的に雪が降るのはこのパターンです。また、上空の気圧の谷が深いとJPCZが発生します。JPCZが白馬に向いている場合には内陸まで雪雲が侵入しやすくたびたび大雪に見舞われます。一方で、風下側の妙高高原や志賀高原ではあまり降らないことがあります。とくに天気予報などで、西回りで寒気が流れ込むと解説される場合に顕著です。
② 北部全域の大雪(信越線の大雪)
典型的な冬型の気圧配置が強まると、等圧線が南北に立っているため新潟との県境付近の広範囲で降雪量が多くなります。寒気が非常に強いと白馬エリアも大雪となることがあります。寒気が弱いと小谷村までの山で雪雲がせき止められて白馬村であまり降らない場合がありますが、その場合でもスキー場上部より上では風が強まって、ガスもかかりやすいでしょう。
③ 北東部の大雪
冬型の気圧配置が崩れ始めると、西から高気圧に覆われ出し等圧線が北東―南西方向に向くことがあります。そのようなパターンでは野沢温泉や妙高高原側で雪が降りやすく、白馬ではあまり降らない場合が多くあります。
④ 長野市付近までの大雪
冬型の気圧配置が崩れると、日本海に低気圧(ポーラーロー)が発生することがあります。そのような低気圧が北日本に接近して猛烈に発達すると、低気圧から延びるシアライン(前線のようなもの)が陸地にかかるため数時間のうちに晴天から急激に天気が悪化して大雪を降らせることがあります。危険な疑似好天と呼ばれるパターンのひとつですから、ぜひ覚えておいてください。
ここまででわかるように、白馬エリアは山間部でありながら、里雪型のときに雪が降りやすい傾向があるようです。
冬型の気圧配置といっても上空の寒気は強いときもあれば、弱いときもあり、また高度によって差があるため千差万別です。寒気の強さはその時々の気象情報を確認してイメージを持っておくことを推奨しますが、一般的に上空3000m付近で-20℃以下の寒気が入ってくると北陸地方や長野北部では平地でも除雪に苦労するような大雪に見舞われやすいので特に警戒が必要です。また、日本海の海面水温は冬の初めの方が高く、春先にかけて冷えていく傾向があるため、同じ強さの寒気でも冬の前半(12月や1月)の方が一度の多くの雪が降りやすいと考えられます。
移動性高気圧は前面より後面がねらい目
冬に入山しやすい天気になることが多いのはやはり移動性高気圧が日本列島を覆うときです。ところが、白馬エリアが日本海と非常に近いという地理的特徴のために、高気圧の中心がまだ西にある場面では弱い西高東低のような気圧配置となり、各スキー場ではよく晴れていても、それより上の山岳エリアでは風が吹きやすかったり、ガスがかかったりすることがよくあります。高気圧の中心が東日本の真上~東に抜けつつある場面の方が、風が弱くなりやすく安全に登山が楽しめることが多いようです。高気圧後面は次の気圧の谷の接近前なので上空高いところの雲が次第に増えていきますが、初心者や中級者にとっては風がない方がより重要だと思いますので、高気圧は後面をねらうことを勧めます。