朗読で心・脳・体を活性化しよう
昔の人は文字を耳で読んでいた
現代は書物のみならず、パソコン、携帯電話など複数メディア上に文字が溢れ、誰でも瞬時に目視、黙読ができます。しかし古代・中世は、音読社会でした。印刷技術が生まれるまでは書物は貴重で、手書きの写本によって、経典や文学が伝えられました。写す際には、一字一字読み上げながら作業したでしょうし、写した内容を、家族や仲間に読んでやる使命感にも満ちていたことでしょう。
言葉を表し、伝えるまでに、今よりもずっと、時間も熱意も注がれていた時代。西洋の教会で、神父が文字を読めない人々に、聖書を高らかに朗読する。日本の貴族たちが歌会で、和歌を詠み聴かせ合い、批評し合う。そんな光景が浮かびますね。昔の人は、「耳で読む」読書を楽しんでいたのでしょう。
江戸時代は子供から大人まで素読三昧
子供の頃から素読を繰り返すと、国語力、記憶力、リスニング力、そして感性の活性化など、複数の効果があると言われています。外国語など他の科目でも、繰り返しの音読が役立つことは、学生時代を思い出せば納得ですね。
しかし近代を経て、いつの間にか、私たちは黙読社会へと移行してしまいました。それどころか、コミュニケーションツールも電脳化されて、言葉を声に出すことも減っているようです。そんな中で現在、アートとしてもフィジカル面からも、改めて、朗読への関心が高まっています。
朗読で文豪の心模様にアクセスする
また前述のように、音読を前提として書かれた古典や近代の作品では、黙読では気付かなかった文章の美しさや登場人物の感情を、朗読で発見できます。例えば樋口一葉の文章は句読点が少ないこともあり、黙読だけでは原文が理解しづらく、これまで敬遠していた人もあるかもしれません。けれども、一葉をゆっくり朗読すると、急に明治期の下町の様子が鮮やかに浮かんだり、人物の心模様に共感して、切なくなったりします。
樋口一葉にとどまらず、幸田露伴、森鴎外、夏目漱石、芥川龍之介、谷崎潤一郎など明治〜昭和の文豪作品を朗読すると、改めて彼らの日本語の美しさに感銘を受けます。日本の陰影表現に優れた作家ならではの名文にアクセスでき、フィジカルに体感できる方法が、朗読なのです。
朗読で心・脳・体を鍛えよう
<参考文献>
長谷 由子 (著)『朗読日和―すぐに役立つ「実践的朗読」のススメ』(彩流社)
川島 隆太、 安達 忠夫(著)『脳と音読』 (講談社)