そろそろ忠臣蔵の季節。開場50周年の国立劇場記念公演が見逃せない

国立劇場
12月の小劇場での文楽公演では、一日で通し観劇が可能

国立劇場の幕間
『仮名手本忠臣蔵』の「仮名手本」とは、赤穂四十七士をいろは四十七文字になぞらえたもの。江戸時代は、当時起こった事件をそのまま文芸や戯曲で取り上げることを幕府が禁じていたので、舞台設定が南北朝時代に置き換えられています。
12月に小劇場で上演される文楽公演は、午前10時半開演の第1部、午後4時半開演の第2部の構成。続けて観れば、一日で通し狂言として観劇することが可能です。終演は午後9時30分となり体力も問われますが、覚悟溢れる登場人物たちの思いをずっしりと受け止め、感動冷めやらぬ一日となることでしょう。
歌舞伎『仮名手本忠臣蔵』の全段完全通し上演は30年ぶり

赤穂浪士が眠る泉岳寺
そもそも歌舞伎とは、江戸時代に成立した、舞踊・音楽・科白劇などがてんこ盛りの庶民的な総合演劇。一本の長い演目を夜明けから日没まで、合間に休憩の幕間も挟みつつ、一日がかりで楽しんだ芸能でした。しかし多忙な現代では、それぞれの作品の見せ場や踊りのみを上演する、「見取り」スタイルでの上演が多くなっています。
作品によっては見せ場で登場する子殺しや切腹が、残酷と評されることも少なくありません。しかし通しの物語で観れば、人間関係上生じてしまった義理と人情の板挟みや、追いつめられやむにやまれず、といった物語の背景が浮かび上がります。時代は違えど同じ日本人として、登場人物の心情に共感や理解が広がるのです。
そんな普遍の説得力を持っているからこそ、江戸時代から続く歌舞伎や浄瑠璃の作品が、今も毎年どこかで上演されているのでしょう。『仮名手本忠臣蔵』の人間味あふれる群像ドラマは、ぜひ一度は通しで観劇することをお勧めしたい名作です。
小説から歴史書まで、赤穂事件を多面的に味わってみよう
その一部をご紹介しますと小説では、芥川龍之介の『或日の大石内蔵助』、大佛次郎『赤穂浪士』、井上ひさし『不忠臣蔵』、池宮彰一郎『四十七人の刺客』など、斬新な解釈や、義士以外の人々に焦点を当てた切り口が生まれています。
歴史書としても、数多くの書籍があります。たとえば、山本博文氏の著作『「忠臣蔵」の決算書』では、赤穂事件を財政的側面から読み解いています。また、野口武彦氏の野口版「忠臣蔵三部作」と呼ばれる『忠臣蔵─赤穂事件・史実の肉声』『忠臣蔵まで』『花の忠臣蔵 』は、忠臣蔵を通じて、いまなお日本人の心性の根底にある何ものかが分析されています。
忠臣蔵の物語と赤穂事件の史実を比較する試みも、新たな秋冬の愉しみとなることでしょう。
参考文献:
芥川龍之介『或日の大石内蔵之助・枯野抄 他十二篇』岩波書店
大佛次郎『赤穂浪士』〈上〉〈下〉新潮社
井上ひさし『不忠臣蔵』集英社
池宮 彰一郎『四十七人の刺客』〈上〉〈下〉角川書店
山本博文『「忠臣蔵」の決算書』新潮社
野口武彦『忠臣蔵─赤穂事件・史実の肉声』筑摩書房
野口武彦『忠臣蔵まで 「喧嘩」から見た日本人』講談社
野口武彦『花の忠臣蔵』講談社