これからが見ごろ、六義園は和歌のシミュレーション・パーク

設計者柳沢吉保は、ドラマでは水戸黄門の敵。実は知性と教養に満ちた名老中

元禄15年(1702年)に築造されたこの庭の設計者は、柳沢吉保。ドラマでの柳沢吉保といえば、水戸黄門の宿敵で、悪役として描かれていますね。しかし実際の吉保は、知性も実践力も備えた川越藩主。今も埼玉県指定旧跡として残る、三富(さんとめ)新田を開発した名老中でした。
和歌のコードを、疑似ワールドに盛り込んだ回遊式築山泉水庭園
では、次のように、場所ごとに景観名や歌枕(有名な名所や歌枕)としてのコードと、関係する歌が示されていたらいかがでしょうか?
(※歌の引用は旧かな使いです)
【出汐湊(でしおのみなと) 】
和歌の浦に月の出汐のさすままによるなく鶴(たづ)の声ぞかなしき
池を前に、この歌の光景を想像してみましょう。船の出入りのための潮が満ちるのは、月の出のときです。満潮を待つ間に浮かぶ月、そして物悲しく響く鶴の声…脳裏には海辺が見えてきますね。「和歌の浦」や「夜鳴く鶴」は、和歌の定番コンテンツでもあります。
【指南岡(しるべのをか) 】
尋ね行く和歌の裏路の浜千鳥跡あるかたに道しるべせよ
指南岡の次にあるコードは、千鳥橋。「橋」は、別の世界に移動する意味も持ちますし、実際に、この場所のテーマ設定は、海辺から山に移ります。そして、浜千鳥の足跡とは、和歌の言葉や言霊の象徴の意味もあるそうです。私を和歌の奥義に連れてって、と誰かが呟いているのかもしれません。
崇徳天皇や西行の言葉に耳を傾けてみる

【水分石(みずわけのいし)】
瀬をはやみ岩にせかるる滝川のわれても末に逢はむとぞ思う 崇徳院
崇徳天皇の歌が込められていると、思わず悲劇の人の一生を思い浮かべます。
続いて道なりに木々が多い路には、
【下折峯(しをりのみね) 】
よしの山去年(こぞ)の下折のみちかへてまだ見ぬかたの花をたづねん
桜が大好きだった西行の、「今年は去年と違う道の桜を探しましょう」の心に、思わず頷きました。ちなみに下折=枝折とは、帰り道で迷わないように木の枝を折ったもので、「栞」の語源です。
八十八は八雲の道。天地とともに長久なるこころなるべし
「八十八は八雲の道、そしてその支極に至り、終りてはまた始り、春夏秋冬の廻りてやまさる如く、窮もなくやむ事もなく、天地とともに長久なるこころなるべし。」六義園は、柳沢吉保が和歌の永遠なる境地に至るための 、シミュレーションゲーム・テーマパークだったのかもしれません。
六義園は晩秋には夜間開園され、見事なライトアップが楽しめます(期間限定)。初秋のうちに和歌の本を携えて、コード解読の予習散策を試みてはいかがでしょうか。