頻々と目撃される幸せの青い鳥。イソヒヨドリが都市・内陸に大進出しています
都市鳥の仲間入りしつつあるイソヒヨドリってどんな鳥?
学名のMonticola solitariusとは、山の孤独な者、といった意味で、ユーラシア大陸の広域に分布する亜種は、標高2000~4000mの高山地帯に単独生活をする鳥として知られています。日本では岩礁の多い海岸、磯場にのみ生息する野鳥とされています。
日本列島に渡ってきたイソヒヨドリが、海岸沿いの崖地などに営巣するようになった理由は、おそらく日本列島の地形特性として、広大な内陸の山岳地帯が広がる大陸と違い、海沿いに彼らの好みである高低差のある岩礁地帯が多かったからなのではないかと思われます。
ところが、都市化が進んだ1980年代の後半ごろから、次第に内陸のビル街や工場の外壁部材にイソヒヨドリの姿が見られるようになりました。1991年に改訂された「日本の野鳥(山と渓谷社)」に、内陸進出と記載されています。当初は、繁殖期が終わった秋ごろから、単独行動の季節に気まぐれに内陸地に逗留するものと考えられていましたが、次第に各地で繁殖も確認され、本格的にイソヒヨドリが内陸、しかも何十キロも海岸から離れた都市や住宅街に分布域を広げていることが確実となりました。最近では、大都市中の大都市・渋谷駅周辺でも見かけるようになったという報告があります。
性質は極めて図太く好奇心旺盛で、人間のすぐそばに飛んできて平然と佇んでいることも多いので、多くの人に目撃されることになります。他の野鳥に対してもかなり強気で、ミミズを捕って集まったムクドリの群れを、一羽のメスのイソヒヨドリが蹴散らしてしまうのを見たことがあります。
群れない。単独行動を好むフリーダムな性格。その育児も独特だった
鳥には変わった育雛の習性を持つ種がいくつもいますが、イソヒヨドリの育児も独特。卵の数は5~6ほどで、雛が巣から巣立つまでは両親が協力して、昆虫や小動物(ときに蛇もハントするといわれています)などの高カロリーの蛋白源をせっせと雛に運びます。ところが、雛が自分で飛べるようになる巣立ち後はクラス分けされて、父親が給餌する雛と母親が給餌する雛、それぞれが二羽から三羽ほどを受け持つようになるのです。自分が受け持ちでない雛に対しては一切面倒を見なくなり、餌も与えなくなります。家族といえども群れずに早々に解散。できるだけ小さいユニットに分散しようという性質があるようです。
こうしたところにも、「山の孤独者」と名づけられた性質があらわれているのではないでしょうか。まだこうした性質をよく知らなかった頃、成熟したオスのイソヒヨドリが、明らかに若いオスを二羽引き連れて駐車場で遊んでいるのを見て、どういうことなんだろうなあ、と思ったものでした。今思えば、分担が決まり、家族が分割された後だったのでしょう。巣立ち後の雛がこのように親の世話を受けるのはおよそ一ヶ月弱、その後は独り立ちして自分の縄張りをもつようになります。
害虫駆除能力も高いイソヒヨドリ。その歌声も絶品です
一方、イソヒヨドリによってツバメの巣が襲撃され、雛が犠牲になるという事案も発生しているようです。人家の、蛇やカラスなどの近づけない軒などに巣を構えてきたツバメにとっては思いも寄らない天敵が出現したことになり、もしこの後も住宅地にイソヒヨドリの繁殖が増え続けるとするなら、懸念材料でもあります。
鳴き声は非常に美しく、特に春から夏にかけての繁殖期ごろのオスは、縄張りの高い場所をソングエリアとして利用して高らかに歌を奏でます。マンションやショッピングセンターの屋上で、豊かな抑揚と複雑な音程の鳴き声はまさに絶品。聞きほれてしまうふくよかな美声は、イソヒヨドリの大きな魅力です。一方で鳴きまねも得意で、特にアマガエルにそっくりの声で「クケケケ、クケケケケ…」と鳴くこともよくあります。カエルをおびき寄せようとしているのかもしれません。
また、あるときイソヒヨドリが明け方、ベランダに来て手すりにとまり、家の中に向けてしきりに囀るので何かとのぞけば、餌をくれとねだっていたようです。まるでネコのような無邪気さと甘え上手です。派手な体色の鳥は、概ね警戒心が強いものですが、イソヒヨドリはほとんど人間に警戒心を持ちません。これは人間の住む環境に参入しはじめた歴史が浅く、他の野鳥たちのようにまだ人間にひどい目にあったことがないためでしょう。餌付けをすれば、比較的容易に手に乗って餌を食べるほどに慣れることもあるようです。そんな友好的なイソヒヨドリ。今後もその愛嬌のある性質を維持し、身近な親しい野鳥として生きていってほしいものです。
(参考)
日本の野鳥 山と渓谷社
小笠原諸島におけるイソヒヨドリによる外来植物の種子散布(地球環境 Vol.14 2009) 川上和人
としちょう・NOW(都市鳥研究会)