今更聞けない? キリスト教最大の祝日・イースターをじっくり解説

イースターって名前は知ってるけど、今いち何のことだかわからない。そもそも何月何日がイースターなの? と思ってる方も多いはず(ちなみに今年は、本日3月27日はイースターです)。
そう、イースターの日は年によって大きく変動するのです。どうしてでしょうか。
世界の暦をも変更させたキリスト教の大祭典イースター=復活祭

クリスマスのように固定祝日ではなく、春分の後の最初の満月の次の日曜日、と定められています。月齢を意識して暮らしているわけではない現代人にとっては、春分はわかるとしても、春分後の最初の満月がいつかなんて、すぐにはわかりませんよね。それがまずわかりにくい上に、その年により三月の末だったり四月の末だったりと幅があるので、几帳面で予定通りが好きな日本人には、とっつきにくい理由にもなっていそうです。
なぜ「満月」がかかわってくるかというと、キリストはユダヤ教の大祭典である「過ぎ越しの祭り」の日にあわせてユダヤの首都エルサレム入りし、そこでとらわれて磔刑にかけられたため、キリストの受難日・復活と「過ぎ越しの祭り」はほぼ重なります。
この「過ぎ越しの祭り」はニサンの月(現在の暦で3月から4月にかけて)の14日の満月の日と定められていました。西暦325年にニケア公会議と呼ばれるキリスト教徒の最初の会議が行われ、このとき復活祭をいつと定めるかが論争されました。ユダヤ教の流れを汲む教派は過ぎ越し祭りと同様満月の日とすべきとし、それに反対する教派は主日、つまり日曜日にこだわり、対立が深まりました。そのため両者の主張の妥協が図られて、「春分の日」後の最初の満月の次の主日(日曜日)、とされたのでした。
ところがこの当時の暦はユリウス・カエサルが紀元前46年に制定した太陽暦(ユリウス暦)でしたが、この暦は一年の長さが実際の天体の運行とわずかにちがうため、長い期間の間に春分の日などの節気がずれていってしまいます。
そこで1582年にローマ教会のグレゴリウス教皇は閏年の入れ方を変更した新太陽暦、すなわちグレゴリウス(グレゴリオ)暦を制定します。その際、春分の日を3月21日と固定しました(実際には年により3/20、まれに3/19となる年も)。これは、イースターの日取りを一定期間・時節に固定するための措置でした。これにより、イースターの日取りは3月22日~4月25日の間に収まるようになりました。
しかし、ローマ帝国が、西方教会(カトリック・プロテスタント)と東方教会(ギリシャ正教・ロシア正教)に分裂、東方教会では変わらずユリウス暦を用いてイースターを制定しており、そのため西方教会と東方教会では日取りが大きくずれることがままあります。
イースターのシンボル・タマゴには厳しい戒律の歴史があった

イースターに先立ってキリスト教ではその準備期間として受難節(レント・Great Lent)は四旬節(四旬斎)が設けられています。期間は復活祭前の6回の日曜日(主日)を除いた40日間。40日間とは、キリストがおこなった修行・荒野の試練の40日間の断食に由来するとも、受難に先立つ40日間、特に弟子たち身近なものたちと親しみすごしたという伝承に由来するとも言われていますが、いずれにしてもキリスト教徒たちはかつては、また一部では今でも、この期間、肉、卵、乳製品、アルコールなどを断ち、節制と禁欲、祈祷に勤めて「主とともにある」日を過ごすことになっています。かなり長い期間ですよね。特に最後の一週間は厳しい断食や夜を徹した祈りなどの厳しい戒律の日々をすごすことになります。
こうして迎えるイースターは、厳しい節制明けの祝祭となり、禁じられてきたタマゴをふんだんに使った料理が供されることとなるため、タマゴがそのシンボルなのです。肉や牛乳ではなくタマゴなのは、タマゴは死から(棺おけから)復活したキリストと同様、新たな命が生まれる蘇りの象徴とされるため。このため東方教会のイースターエッグ(卵の殻に彩色したもの)は、キリストの流した血を表す赤に染められます。節制の後の、タマゴやバター、牛乳をふんだんに使ったお菓子や、肉や魚料理はさぞ五臓六腑に染み渡ることでしょう。
ドイツではオスターハーゼというウサギの形をしたパンを、イタリアでは鳩や子羊の形のパンを食べる風習が。また、フランスやスイスなどでは特に羊肉が供される他、やはりハムなどを含めた肉類料理がふんだんにふるまわれます。
子供たちには、かつては森の中に色付きの卵を隠してさがさせるという宝探しのようなイベントもありました。
このイースター・エッグは「イースター野うさぎ(Easter Hare)」がを産んだと信じる伝承があり、西方教会ではウサギもタマゴと並んでイースターの重要アイコンです。
ウサギは多産で、春の祝祭のシンボルとしてふさわしいということと、ウサギは処女性を失わずに繁殖することができる、という迷信から、ウサギは聖処女マリアの眷属とかイメージとして定着しているから、と言う説もあります。
クリスマスが冬至、イースターが春分にあたるんなら、夏至と春分には何かある?

イースターの正式な名称はパスハ( Πάσχα、 Pascha)。これは先述したとおりユダヤ教の「過ぎ越し祭り」の名称をそのまま流用したもの。英語圏とドイツ語圏以外のほとんどの国ではこの「パスハ」に対応した名称で呼ばれています。イースターの名称はゲルマン神話の春の女神である「Eostre(エオストレ)」に由来しており、ギリシャ語のエーオース(Ἠώς、 Ēōs、EOS・曙光)、英語のEASTも、日が昇る方向であることから名づけられています。
ここからもわかるとおり、イースターは同じ時期の各地の民間信仰(キリスト教的には異教信仰)を取り込み習合して今の形になったものです。
クリスマスが冬至の時期にあたり、もともとは異教の冬至の祭りがキリストの誕生日の祝祭に強引に結び付けられたよりは無理はないのですが、もしかしたら「過ぎ越し祭り」も、さらに大昔には春分の祭りだったものが特定の宗教・神話に結びついて変容したものなのかもしれません。
冬至がクリスマスで春分がイースター。とすると、あとの二つ、夏至と秋分に対応するキリスト教の祝祭はあるのでしょうか。
夏至は、6月24日が「聖ヨハネ祭」とされ、キリストに洗礼を授けた洗礼者ヨハネの誕生日として、ポーランド最古の都市ポナズンなどではランタン(紙風船)に火をともして空にあげるランタン祭りが行なわれ、盛り上がります。これについてはまたいずれの機会にご紹介します。
また秋分は「聖ミカエル祭(Michaelmas)」。カトリック教会では三大ミサ(mass)のひとつとされ(あとの二つは降誕祭christ mass、2/2の聖マリアのろうそく祭Candle mas)る大事な祝祭です。竜退治の大天使ミカエルを、これから闇、つまり夜が長くなる季節を迎えるにあたり、それに打ち勝つ力を授かるために藁で竜を作り、燃やしてキャンプファイヤーをしたりするようです。

ただ、日本の場合イースターの頃というのはお花見行楽の時期と重なり、それがイースターの存在感をかき消している一因であり、商売人にとっては難題。でもお花見もバーターで売り出す商戦がヒットして、もしかしたら数年後にはイースターの日には町中タマゴとウサギのディスプレイが飾られて、某駅の交差点がコスプレでうかれる若者たちで大渋滞、なんて事になるかもしれませんね。