春に咲く植物界のアイドル、あだ名は太郎坊、本名は…?
可憐な姿に似ず、意外にも逞しくバトルに参戦していた存在、それが“太郎坊”です。
なぜタロウボウと呼ばれたのか?
実はそれは誰でも知っている可憐な花の代表、スミレのこと。「スミレ」という名前は、大工道具の「墨入れ(墨壷)」に似ているから「スミイレ」と呼ばれたのが変化したという説と、「相撲取り草」が縮まったという説もあるのです。ジロボウもスミレも、野辺のどこにでもあるので、遊びに使われたのでしょう。
スミレの王国、ニッポン
violetの代名詞でもある濃い青紫のスミレのほか、ピンク色のアカネスミレ、白い花のマルバスミレ、薄桃色の叡山スミレ、黄色の鮮やかなキバナノコマノツメ・・・
もっともよく見かけるのは明るく鮮やかな薄紫の花をつけるタチツボスミレです。街中で「あれっ、こんなところにスミレが」と目についたら、それはほぼ間違いなくタチツボスミレ。
「タチツボ」とは「立ち坪」で、すっくと立ったように見える姿と、そして庭(坪)のどこでも勝手に生えてくるのでこの名がついています。
実は、スミレには足がある!
敷石の隙間や放置した植木鉢から突然生えてきてびっくりしたことはありませんか? 石垣の間、道路の割れ目、木のくぼみ…なぜこんなところに? という場所から自在に生えてくるスミレ。それは蟻がすみれの種子を運ぶからなんです。
スミレの種子はエライオソームと言うアリの好む物質を分泌し、アリはさかんにスミレの種子を食料として巣に運びます(ちなみにスミレの実鞘は中心から三つに割れた形でかわいらしく、是非この春スミレを気をつけてみてください)。
食べ残した種子が発芽して、様々なところで花を咲かせます。こうしてスミレは分布を広げるだけではなく、アリが巣を掘って捨てた柔らかい土がスミレの苗床にもなります。アリとスミレは共依存関係にあるのです。
山路来て なにやらゆかし すみれ草(松尾芭蕉)
先人がそう歌ったように、いつの時代も日本人が心魅かれるアイドルフラワーだったようです。